ワークショップデザイナーの相内洋輔です。
昔のことになりますが、ある企業の管理職研修をデザインしたとき、こんな失敗をしました。
「チームのコミュニケーションを良くする」というテーマをもらって、対話ワーク、フィードバック演習、振り返りシートと、中身を詰め込んだんです。当日の参加者の反応も悪くなかった。「楽しかった」「刺激になった」という声もいただきました。
でも、研修から2週間後に担当者から連絡があって、「現場が変わったかというと……正直、よくわからないんですよね」と言われてしまったんです。
その言葉がずっと引っかかっていました。コンテンツの質が低かったわけじゃない。参加者の反応も良かった。なのに、何かが足りなかった。
しばらく経って、ようやく気がつきました。私はあのワークショップに「コンテンツ」は詰め込んでいたけれど、「方向と距離」を設計していなかったんです。
「どこへ」「どこまで」が決まっていない設計の怖さ
ワークショップをデザインするとき、私たちはつい「何をやるか」に意識が向きます。どんなアクティビティを使うか、どんな問いを立てるか、時間配分はどうするか。
でも、それだけだと実はまだ「素材の選定」をしているに過ぎないんです。
ゴルフでいえば、クラブを選んで構えたはいいものの、ピンの方向を確認していない状態に近い。どんなにきれいなスイングをしても、向きがずれていればボールはラフに飛んでいきます。
そこから私が意識するようになったのが、「打ち出し角度」と「飛距離」という二つの視点です。ゴルフそのままの言葉ですが、ワークショップの設計にもそっくり当てはまると思っています。
打ち出し角度とは、このワークショップで、参加者をどの方向に連れていきたいのか、という問いです。「コミュニケーションを良くする」というテーマひとつとっても、「本音を話せる関係性をつくる方向」なのか、「業務連絡の精度を上げる方向」なのか、「互いの強みを知り合う方向」なのかで、まったく違うデザインになります。
飛距離は、どこまでの変化を起こしたいのか、という問いです。参加者がほんの半歩だけ動いてくれれば十分なのか、それとも海を渡るくらいの大きな一歩を期待しているのか。同じアクティビティでも、飛距離の設定が変わると、問いの深さも、時間のかけ方も、ファシリテーターの関わり方も変わってきます。
打ち出し角度の決め方
「方向なんて、テーマを見ればわかるんじゃないか」と思う方もいるかもしれません。でも実際には、クライアントや主催者が言葉にしているテーマと、本当に起こしたい変化の方向が、ずれていることがよくあるんです。
私が意識するようにしたのは、「設計の前に、方向の確認をする」という習慣です。
たとえば、こんなふうに問いを立ててみます。
このワークショップが終わった翌朝、参加者にどんな景色を見せたいのか。職場に戻ったとき、何が少し違って見えていてほしいのか。あるいは、このワークショップをやらなかったら、何が変わらないままになってしまうのか。
こうした問いに丁寧に向き合うと、「コミュニケーション」という大きな言葉の中に、本当に目指したい角度が浮かび上がってきます。角度が定まれば、どのアクティビティを選ぶか、どんな問いを使うかは、自然と絞れてきます。
先ほどの管理職研修を振り返ると、私は「コミュニケーション全般」という広い方向を向いたまま設計してしまっていたんだと思います。あちこちに向けて打ったボールは、それぞれ飛んでいくけれど、集まって一つの変化をつくることができなかった。
飛距離は「現在地」から測る
角度が決まったら、次は飛距離の設定です。
ここで大切なのは、参加者の「現在地」をちゃんと確認することです。飛距離は絶対値ではなく、今いる場所からの相対値だからです。
よく話すのですが、初めて本音の対話に触れる人に、いきなり「海を渡る飛距離」を設定しても、それは無理に遠くへ飛ばそうとするようなもので、かえって怖さや抵抗を生んでしまいます。逆に、すでに対話の土台ができているチームに対して「数歩だけ」の設計をすると、物足りなさや「また同じ話か」という空気が漂いはじめます。
飛距離を間違えると、コンテンツがどれだけ良くても、参加者の体験が宙に浮いてしまうんです。
私がよく使う確認の問いは、「参加者は今、何に慣れていて、何に慣れていないか」です。
慣れていることの少し先に打ち出すなら、短めの飛距離でいい。慣れていないことへの挑戦なら、ウォームアップ(準備運動)に時間をかけながら、助走をつけて飛ぶ設計が必要になります。
設計に「芯」が通るということ
打ち出し角度と飛距離、この二つが揃ったとき、ワークショップに「芯」が通ります。
芯が通っているワークショップは、見た目の賑やかさとは少し違う、静かな力強さがあります。参加者が「何となく楽しかった」ではなく、「あ、自分は今日ここが動いた」と感じられる体験になります。
あなたが今デザインしているワークショップは、どの方向に向かっていますか?そして、そこまでどれくらい飛びたいと思っていますか?
この二つを問いにして、設計の初期段階で立ち止まってみることを、私はこれからも続けていこうと思っています。どうぞ、次の設計のときにお試しください。
対話をもっとおもしろく。
相内 洋輔
