ワークショップデザイナーの相内洋輔です。
私は渓流でのルアーフィッシングが大好きで、休日になると山形や岩手の渓流に足を運ぶことがあります。澄んだ流れの中にルアーを泳がせ、ヤマメやイワナの反応を読む——あの緊張感と静けさが、たまらないんです。
釣り場についてからの一投目は、いつも同じルアーを使います。釣果を狙うというより、その日の状況を調べるための偵察です。魚はいるか。活性は高いか低いか。流れはどうか。その反応を見てから、本命の作戦を練ります。
こうした役割を持つルアーは「パイロットルアー」と呼ばれます。人それぞれ、お気に入りのパイロットルアーがあるんです。
実は、ワークショップの現場でもまったく同じことをやっています。本題に入る前に、必ず参加者の様子を観察する時間を設けているのです。
それが「チェックイン」と呼ばれる、今の気持ちや状態をグループに共有する短いワークです。「最近うれしかったこと」を一言ずつ話してもらうだけでもいいし、「今日ここに来るまでの道中で気づいたこと」でもいい。形式はさまざまですが、主な目的は参加者の緊張をほぐすことにあります。
でも私は、チェックインにはもうひとつ、大切な役割があると考えています。それが「場の活性を読む」こと。パイロットルアーとしての機能です。チェックインの場面で、参加者はさまざまなシグナルを出してくれています。ファシリテーターとして、そこを静かに観察しておく。これがその後の進行を大きく左右するのです。
何を「読む」のか
では具体的に、チェックインのどこを見ればいいのでしょうか。
まず「すぐに話し始めてくれるか」です。「では隣の方と一言ずつ話してみましょう」と言った瞬間に、ざわっと声が上がるグループと、しーんと静まり返るグループがあります。前者は活性が高い。後者はウォームアップに時間がかかるかもしれないというサインです。
次に「時間感覚」です。一人30秒でお願いします、と伝えたとき、ほとんどの方が収まるか、ほぼ全員が大幅にオーバーするか。これはそのグループの「語りたさ」の量を示しています。短く終わるグループに長い対話ワークを投げると、沈黙が続いて苦しくなる。逆に語りたいグループに時間を絞りすぎると、欲求不満が残ります。
そして「場のトーン」です。笑い声が出るか。冗談っぽい発言が生まれるか。それとも、みんな真面目に、ていねいに話しているか。このトーンは、その日の場の文化になっていきます。
チェックインは短い時間ですが、これだけの情報が詰まっているんです。
読んだ情報を、どう使うか
パイロットルアーを投げて反応を見たら、次は作戦を練る。ワークショップも同じで、チェックインで読んだことを、その後のファシリテーションに反映させていきます。
活性が低いと感じたら、丁寧にアイスブレイクを行うか、最初のワークをすこし簡単にするかなど、これから対処できる方法を総チェックします。用意していた問いが難しすぎると感じたら、前段に「軽い問い」を一つはさむ。逆に活性が高く、場がすでに温まっているなら、ウォームアップを短縮してメインに早く入る選択肢もあります。
「でも、プログラムを変えていいんですか?」と聞かれることがあります。いいんです。というより、変えるために読んでいるのです。設計したプログラムはあくまで「仮説」です。参加者の状態という「現実」に出会ったとき、仮説を修正できるのがファシリテーターの腕の見せどころだと私は思っています。
もちろん、毎回大きく変える必要はありません。「少しペースを落として進もう」「この問いはもう少しやさしい言葉で出してみよう」といった微細な調整で十分なことも多い。でもその調整ができるかできないかで、場の質はずいぶん変わります。
チェックインを「ただの自己紹介タイム」として流してしまうのは、パイロットルアーを投げたのに水面を見ていないのと同じです。せっかくの情報を、拾い損ねてしまっている。
あなたのワークショップでは、チェックインのとき何を見ていますか?
発言の内容だけでなく、声のトーン、場の空気、時間の使い方。そういったところに意識を向けてみると、同じチェックインがまったく違って見えてくるはずです。最初の一投が、その日の場全体を読む入口になる。そう思えたとき、チェックインがちょっと楽しくなりませんか。
対話をもっとおもしろく。
相内 洋輔
