「ユニークなアイデアを出したい」と思ったとき、私たちはつい頭の中だけで考えを巡らせてしまいがちです。
でも、本当に独創的な発想は、突然ひらめくものではなく、「どんな素材を集めたか」「それらをどう組み合わせたか」にかかっています。
だからこそ、アイデア共創の現場では、発想そのものより先に「マテリアルギャザリング(素材集め)」が欠かせないのです。
たとえば、地域の課題に取り組むアイデアソンや、高校生たちとの探究学習。どんな場面でも、すぐに「アイデアを出して」と言われることがあります。ですが、素材がなければアイデアは生まれません。
素材とは、思いつきの断片、調べたデータ、誰かの経験談、あるいは現場で見た風景のことかもしれません。それらをひとつひとつ拾い集めていく。そして、ある瞬間に、まったく違う素材どうしが「ひとつの問い」でつながる。そのとき初めて、ユニークなアイデアの芽が顔を出します。
「つなぎ目」を増やすために、素材を持ち寄る
私は、アイデア共創の場では「すぐにアイデアを出していただく」のではなく、「素材を集める」時間をできるだけ丁寧に設計しています。
リサーチをする。観察する。インタビューをする。五感で感じたものを記録する。そして、それらを他者と持ち寄る。いろんな素材があるほど、「つなぎ目」が増える。つまり、アイデアの可能性が広がるのです。
そして、共創とは、素材が出そろったあとに起きる“編集作業”なのです。「このふたつ、意外と似てない?」「これとこれ、組み合わせたら面白くなるかも」という声が生まれるのは、素材をひらくことができた人たちの特権です。
心理的安全性が、素材の質を左右する
ここでひとつ、重要な前提があります。それは、マテリアルギャザリングの質は「心理的安全性」によって大きく左右される、ということです。
誰かと一緒に素材を集めるとき、もし「それって意味ある?」「そんなこと考える必要ある?」とすぐ否定される場だったら、どうでしょう。素材は持ち寄られず、引き出しの奥にしまわれたままになるでしょう。
あるいは、自分が持っている素材が「レベルが低い」と思われそうで怖くて、口にできないこともあります。だからこそ、場づくりが大事になるのです。
「それ、おもしろいね」「へえ、そんな見方もあるんだ」と、まずは素材の存在を受けとめてもらえること。
「正解かどうか」よりも、「その素材はどこから来たの?」と興味を持ってもらえること。
そんな雰囲気のなかでこそ、人は自分の記憶を掘り起こし、観察を重ね、まだカタチにならない素材を差し出すことができるのです。
判断はあとで。まずは拾って、広げてみる
私は、ワークショップの現場でよく「まずは拾って」「判断はあとで」と伝えています。
いいか悪いか、正しいか間違っているか。その判断は、もっとずっと後でいい。まずは素材を集めて、広げて、眺めてみる。そこからようやく、「編集」が始まります。
そしてその編集が、誰か一人のものではなく、全員の問いによって動き出したとき、思ってもみなかった“つなぎ目”がふいに立ち上がってくる。
それこそが、ユニークなアイデアが生まれる瞬間です。
私はその瞬間が好きですし、それを目撃するために、今日も場をつくり続けています。