ワークショップが不調に終わる4つの理由 〜参加者側の要因〜

ワークショップデザイナーの相内洋輔です。

前回の記事では、キャリアコンサルタントの勉強で出会った「カウンセリングが不成功に終わる要因」という枠組みを借りて、ワークショップが不調に終わる提供者側の4つの要因を整理しました。今回はその続編として、参加者側の要因について書いてみたいと思います。

カウンセリングの教科書では、クライエント(相談者)側の問題として「意欲の不足」「知的能力の不足」「病気」「環境」の4つが挙げられていました。これも、やっぱりそうだよなと思ったんです。

ワークショップは参加者との共同作業です。こちらがどれだけ入念に設計しても、参加者の側に主体性がなければ、場は機能しません。やらせるものでもなければ、過度に下手に出ておだてるものでもない。参加者が自ら対話に向かっていく意欲があってこそ、ワークショップは成立するのです。

目次

意欲の不足——場のエネルギーを根こそぎ奪うもの

ワークショップの現場で最も手強い課題が、これです。意欲の不足。

参加者が自分の意志で来ているのか、それとも上司に言われてしぶしぶ来ているのか。この違いは、場の空気を決定的に変えます。自発的に参加している方たちの場は、問いを投げかけた瞬間から空気が動きます。一方で「やらされ感」を抱えた参加者が多い場では、何を投げかけても反応が薄い。腕を組んだまま黙っている方や、スマートフォンをちらちら見ている方が目に入ると、場全体の温度が下がっていくのを感じます。

以前、ある企業研修の冒頭でチェックイン(場に入るための一言)をお願いした時のことです。「最近嬉しかったことを一つ教えてください」とお伝えしたら、ある方が夜遊びの武勇伝を嬉々として語り始めたことがありました。詳しくは書けませんが、研修の場で口にする内容ではありません。周囲の空気が一瞬で凍りつくのがわかりました。ああ、今日はこの方と一緒に何かを生み出すのは難しいかもしれない、と直感的に思いました。

意欲が低い参加者がグループの中にたった一人いるだけで、他のメンバーの対話まで引っ張られてしまうことがあります。皆さんもこんな経験はないでしょうか。グループで対話をしている時に、一人だけ明らかに興味がなさそうな方がいて、他のメンバーがその空気を気にして発言を控えてしまう。あの何とも言えない重さは、ファシリテーターの力だけではどうにもならない場面があるのです。

もちろん、こちらにできることはあります。「この場が何のためにあるのか」を丁寧に伝えること。ワークの冒頭に小さな成功体験を設計すること。ただ、それでも変わらない時は変わりません。そのことを知っておくだけでも、ファシリテーターの心の持ちようは随分と違ってくるはずです。

知的能力の不足——知識と思考の射程距離

カウンセリングの教科書では「知的能力の不足」と書かれていますが、ワークショップの現場に当てはめると、これは二つの層に分けて考えたほうがわかりやすいと思います。一つは知識の不足、もう一つは思考の射程距離のミスマッチです。

まず知識の不足について。以前、ある現場でシナリオプランニング(未来の複数のシナリオを描き、戦略を検討する手法)に取り組んだことがあります。事前にしっかりと準備期間を設けて、社会の変化の兆しを捉えてきてくださいとお願いしていました。ところが当日、出てきた内容の多くが、ニュースの見出しレベルにとどまっていたのです。人口動態や市場データに基づいた分析はほとんどなく、具体的な数字も出てこない。準備期間をお渡ししていたにもかかわらず、対話が深まるだけの材料が揃っていませんでした。これは思考力の問題ではなく、純粋にインプットが足りていないということです。ワークショップでどれだけ良い問いを投げかけても、そこに乗せる知識がなければ対話は浅いまま終わってしまいます。

もう一つは、思考の射程距離の問題です。たとえば、日常の業務で目の前の案件を確実にさばくことを求められている方は、半径3メートルの思考に最適化されています。それは悪いことではなく、その方の仕事にとっては正しい思考の使い方です。でも、ワークショップの場で急に「10年後の社会を描いてください」と問われたら、普段使っていない思考の筋肉を求められることになる。射程距離が違うのです。現場の一般社員に「経営者の視点で自社の戦略を考えてください」と求めるワークショップも同様で、普段その視座で物事を考えていない方にいきなりそれを求めるのは、やはりスコープの外なのだと思います。

参加者の現在地とワークが求めるものの距離があまりにも離れていたら、どんなに設計を工夫しても場は深まりません。

病気——コンディションが整わなければ、対話はできない

カウンセリングの教科書では「病気」という表現が使われていますが、ワークショップの文脈ではもう少し広く、「参加者のコンディション」として捉えたほうがしっくりきます。

前日にほとんど眠れなかった方が午後のワークショップで集中力を保つのは難しいでしょう。繁忙期の真っ只中にいる方が、頭を切り替えて対話に臨むのも容易ではありません。メンタル面で不調を抱えている方にとっては、グループでの対話そのものが大きな負担になることもあります。

ファシリテーターにとって厄介なのは、こうした事情が外からはなかなか見えないということです。目に映るのは「なぜかこの方だけ対話に入ってこない」という現象だけ。でもその背景には、私たちには見えない事情があるかもしれません。ワークが始まる前の表情や座り方、声のトーンといった非言語の情報に注意を向けて、「今日はちょっとしんどそうだな」と感じる方がいたら、無理に巻き込まないことも場を守るための判断です。

また、企業研修の場合は、ワークショップの開催時期そのものが大きな影響を持ちます。期末の繁忙期に全員参加の研修を設定すれば、参加者は心身ともに余裕がない状態で臨むことになる。プログラムの中身をどれだけ工夫しても、コンディションが整っていなければ効果は半減してしまいます。これは発注者との事前のすり合わせで調整できるポイントでもあるので、企画段階から「いつやるか」にも目を配ることが大切です。

環境——場の外の関係性が、対話を閉じてしまう

最後は環境の要因です。前回の記事では提供者側が整えるべき物理環境について書きましたが、今回は参加者が場に持ち込んでくる「場の外側の事情」の話です。

典型的なのは、職場の人間関係がそのまま対話に影響するケースです。上司と部下が同じグループにいると、部下は本音を言いにくくなります。「ここでは自由に話していい」とファシリテーターがいくら伝えても、普段の上下関係が厳しい組織ほど、その切り替えは難しいものです。ワークショップが終わった後も、その職場で毎日顔を合わせるわけですから、当然といえば当然です。

同僚同士でも似たことが起きます。日常的に意見が対立している人どうしが同じグループになると、ワークショップの対話がいつの間にか普段の延長線上の議論になってしまう。新しい視点で対話する場のはずなのに、既存の関係性がその可能性を閉じてしまうのです。

もう一つ見落としがちなのが、参加者の私生活の状況です。家庭の事情や介護の負担など、個人的な問題を抱えている方が、心を開いてワークショップに臨むことは容易ではありません。ファシリテーターにできることは、グループ分けを工夫すること、対話のグランドルール(基本的な約束事)を丁寧に設定すること、そして「参加の仕方は一つではない」という空気をつくることです。聴くだけの参加も、途中で席を外す自由も、場合によっては保障する。その余白が、結果的に場全体の安心感を高めることがあります。

それでもうまくいかなかったら、自分を責めないでほしい

前回と今回で、提供者側・参加者側それぞれの要因を整理してきました。

参加者側の要因を事前に想定しておくことで、ファシリテーターとしてできる備えは確実に増えます。意欲の低い参加者がいるかもしれないと思えば、導入の設計をもう一段丁寧にしようと考えられる。職場の関係性が持ち込まれるかもしれないと思えば、グループ分けの方針が変わる。参加者のコンディションに配慮するなら、開催時期から見直すこともできる。

でも、ここまで色々と配慮して、当日も一生懸命なんとかしようと全力を尽くして、それでもうまくいかなかったとしたら。それはもう、ワークショップデザイナーのせいではありません。

すべての要因をファシリテーター一人でコントロールすることなど、そもそもできないのです。自分にできることを精一杯やった結果であれば、それ以上自分を責める必要はない。そう思って切り替えることも、この仕事を長く続けていくためにはとても大事なことだと、私は思っています。

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相内 洋輔

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