ワークショップデザイナーの相内洋輔です。
先日、ある講座を受講していたときのことです。グループワークが終わるたびに、講師が「では、各グループで話したことを全体に共有しましょう」と言うのです。最初の1回はいい。2回目もまあ、わかる。けれど、3回目、4回目と続いていくうちに、私はだんだん落ち着かない気持ちになってきました。
席に座りながら、心の中でつぶやいていました。「これ、本当に全部シェアする必要があるのかな」と。
グループでの会話はそれなりに盛り上がっていました。ただ、全体に向けて発表する段になると、急にテンションが下がる。「えーと、私たちのグループでは……」と切り出すものの、内容は他のグループとそう変わりません。聞いているこちらも、なんとなく相槌を打つだけ。気づけば、講座の後半は時間に追われ、肝心の演習が駆け足になっていました。
あなたも、こんな経験はありませんか。
全体シェアは「効く薬」だが、飲みすぎると毒になる
誤解のないように先に書いておくと、私は全体シェアを否定しているわけではありません。むしろ、自分のワークショップでもほぼ必ず組み込んでいます。
全体シェアには確かな効果があります。他のグループの視点に触れて、自分たちの議論を相対化できる。「あ、そういう考え方もあるのか」という触発が起きる。話したことを言葉にし直すことで、学びが定着する。場全体に共通の地図ができて、次のワークに進みやすくなる。
つまり、全体シェアは「効く薬」なのです。ただ、薬には用法用量があります。風邪薬を1日3回飲むのが適切だとしても、10回飲んだら体に悪い。同じことが全体シェアにも言えるのです。
私が冒頭で受けた講座は、まさに「飲みすぎ」の状態でした。
各駅停車のワークショップ、急行のワークショップ
なんでもかんでも全体でシェアするワークショップは、各駅停車です。すべての駅に停まるのは、一見、丁寧で親切に見える。けれど、目的地に着くまでに時間がかかりすぎて、乗客は疲れてしまいます。
一方で、シェアするに値する会話だけを全体で扱うワークショップは、急行です。停まる駅を選ぶ。停まったときには、しっかり扉を開けて、乗り降りの時間をとる。だから一駅一駅に意味が生まれます。
ファシリテーター(場の進行役)として大切なのは、「どこに停まるか」を見極める目です。
たとえば、グループの議論が大きく分かれたとき。これは停まる価値があります。違う意見が並ぶことで、参加者は自分の立ち位置を確かめられるからです。
たとえば、誰かが思いがけない視点を出したとき。これも停まる価値があります。「その発想はなかった」という驚きは、場全体の温度を上げてくれます。
逆に、どのグループも似たような結論にたどり着いているとき。これは、わざわざ停まらなくてもいいのです。むしろ、停まることで「あ、私たちと同じだ」という安心感だけが残り、議論が深まらないまま次に進むことになります。
シェアの密度が、場の密度をつくる
全体シェアの機会を限定すると、場の密度はむしろ上がります。
「今日はあのグループの発言がよかったな」「あの一言で議論が動いたな」と参加者の記憶に残るのは、頻度の高いシェアではなく、密度の高いシェアです。停まる駅を選んだからこそ、その駅での景色が鮮明になるのだと思います。
各駅停車を、急行に変える。それだけで、ワークショップの体験は変わっていきます。
あなたの次のワークショップでは、どの駅に停まりますか。そして、どの駅は通過しますか。
対話をもっとおもしろく。
相内 洋輔
