そのカタカナ語、場を閉じていませんか?

WORKSHOP LANDの相内洋輔(あいない ようすけ)です。

ワークショップの現場では、つい専門用語を使ってしまいがちです。たとえば「アイスブレイク」「グループワーク」「アウトプット」など、一度覚えたカタカナ語は便利で、思わず口をついて出てしまう。特にファシリテーターや講師側が慣れていればいるほど、その傾向は強くなるように思います。

けれど私は、ワークショップの空気をあたためるうえで、「カタカナ語を減らすこと」は思いのほか大切な配慮だと思っています。

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「分からない」は、口に出せない

たとえば、ある会議で「ここからは各チームのアウトプットをお願いします」と言われたとき、数人がわずかに間を置いて動き出す、という場面があります。全体としてはスムーズに進んでいるように見えても、その「一瞬の間」には、何かの引っかかりが潜んでいるように感じるのです。

ワークショップを重ねてきて気づいたのは、こうした「一瞬の空白」に、場の温度が表れるということです。言葉が完全には届いていないかもしれない。でも分からないとは言えない。すぐに動けない。そんな“見えない戸惑い”は、カタカナ語が原因で起こることが少なくありません。

私自身は、ワークショップを始めた頃から「なるべく平易な日本語で話す」ことを心がけてきました。当時は、小学生や中学生を対象にしていたから、なおさらです。

だからこそ、カタカナ語を多用した場に参加したとき、その“ちょっとした言葉の断絶”が気になるのです。発言や反応がほんの少し遅れる、空気がすっと動かない。そうした間は、心地よいものではありません。

「こなれ感」が、空気を閉じる

カタカナ語には、場の空気を「内向き」にする力があります。たとえば、「この問いを深めるために、ペアでリフレクションしてください」と言われたとき、それが何を意味しているか、すぐに理解できる人はどれだけいるでしょう。ワークショップ慣れしていればまだしも、ほとんどの人はリフレクションという単語に耳馴染みがないでしょう。

もちろん、対話の技法や学びの場に慣れている人にとっては、「ああ、振り返りのことね」とピンとくるかもしれません。でも、その“こなれた言葉づかい”こそが、はじめてその場に足を踏み入れた人の心を、すっと遠ざけてしまう

ワークショップの目的は、知識を披露することでも、専門性を競い合うことでもありません。誰かの思いや考えが、自然にこぼれてくるような「空気」をつくること。だからこそ、言葉はできるだけ平たく、開かれていてほしいのです。

「伝える」は「伝わる」とは限らない

カタカナ語に限らず、ワークショップで使う言葉には、つねに「翻訳の視点」が必要だと思っています。

「ペルソナを考えてください」より、「誰のためのアイデアか、具体的にイメージしてみましょう」
「インサイトを探りましょう」より、「相手の“本音”や“気持ちの奥”を想像してみましょう」
「コアバリューは何ですか」より、「あなたが大事にしていることって、何ですか?」

こうして言い換えてみると、ぐっと空気がやわらかくなる。専門的な内容も、ことばを置きかえるだけで、「伝わる言葉」に変わっていきます。

私はワークショップのたびに、「どんな人でも発言できる場にしたい」と願っています。話すことが得意な人だけで盛り上がるのではなく、ふだんは黙っている人の言葉に、ふっと耳を澄ませたくなるような場。

そのためには、まずは私自身が発する言葉を、もっとやさしく、もっと丁寧に選ばなければと思っています。「やさしい言葉」は、「やさしい空気」をつくる。その空気が、「ちょっと言ってみようかな」という気持ちを支える。そんな循環があると思うのです。

参加者の辞書から言葉を選ぶ

もちろん、カタカナ語がすべて悪いわけではありません。必要な場面もありますし、あえてその言葉を使うことで、意図や雰囲気を伝えられることもあります。参加者の中で一般化している言葉なら、言い換える方が不自然です。

大切なのは、少し手間がかかっても、「この言葉は伝わっているか」「別の言い方はないか」と一呼吸おいて考える姿勢です。相手が知らない言葉を連発するのは暴力的だから。

そうならないよう、ほんのちょっとの気配りをするだけで、場の空気はぐっとやわらかく、開かれたものになります。

今日はここまで。

対話をもっとおもしろく。

相内 洋輔

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