宮城大学 事業構想学群 夏期集中講義にて「地域実践演習a」を担当

WORKSHOP LANDの相内洋輔(あいない ようすけ)です。この夏は私の母校である宮城大学 事業構想学群よりご依頼をいただき、集中講義にて非常勤講師を務めました。

私は大学を2008年に卒業して以来、「いつか宮城大学で教えたい」と思ってきました。16年越しに目標が叶い、とても嬉しい4日間となりました!

目次

実践から学ぶ全15回

今回は「地域実践演習a」という科目を通じて、全15回の実践機会をご提供させていただきました。

宮城大学では「実学」を重視しており、学年が上がるにつれ、フィールドワーク等の対外的な活動が増えていきます。地域や行政、企業が抱えている課題の解決を目指すこともしばしばです。私が所属していたゼミでも、東松島市の街づくりについて企画を考えたり、ニューヨークやロサンゼルスを10日間かけて視察するなど、たくさんの経験を積ませていただきました。

こうした取り組みを進めていくにあたっては、チームのメンバーやステークホルダーと協働し、様々な合意形成を円滑に重ねていく姿勢と能力が求められます。

そのためこの講義では、ワーク形式での実践を通じて、課題解決を促進するチーム作りの要点と、効果的な手法を生み出す構想力や創造的展開力、地域住民や関係者との交渉や合意形成によるコミュニケーション力を身につけていただくことを目指しました。

一言で言えば、「共創上手」になっていただくための講義です。

かく言う私は、どちらかと言えば、前述したようなチームコミュニケーションが苦手なタイプでした…。どうしても自分の意見を押し通したくなる性格だったので、ジャイアンのように、剛腕をふるってきた過去があります。

こうしたストロングスタイルでうまく行ったこともあれば、取返しのつかない損失を生んでしまったこともありました。そんなお恥ずかしい話も交えながら、共創の要点をお伝えさせていただきました。

共創の要は「心理的安全性」

最初の講義は「心理的安全性」についてです。チームで課題の解決を図る、あるいは新たなアイデアを創造する際、心理的安全性の有無は、アウトプットの量・質に直結します。それぞれの意見を臆せず表明できなければ、効果的な結論には至りません。つまり、心理的安全性が低い空間では、決して共創は起こらないのです。このため私の講義では、まず始めに心理的安全性の重要さを理解いただくことに努めています。

昨今、様々な企業や組織が心理的安全性の醸成について取り組んでいますが、地方の学生にとっては、まだまだ聞き慣れない概念のようです。今回参加してくださった学生も例に漏れず、ほとんどの方が初耳の状態でした。伝え甲斐があり、嬉しくなりました。

世の中にはごく稀に、みんなが安心できる空間を、ただ自然に振る舞うだけで作れてしまう人がいます。(うらやましい限りです) でも大多数の方は、そうではありあません。心理的安全性の高さを保ってコミュニケーションを交わせるようになるためには、こうした概念が存在することと、その効能を知ることからがスタートです。

そのうえで、意見を変えず平等に扱う、発言の機会を均等にする、帰属シグナルを発し合うなどの点に意識を向ける。あるいは、相手の意見を茶化したり、クスクス笑いを浮かべたりせず、しっかり受け取る。

こうしたポイントを実践いただくと、場のムードは驚くほど変わります。そして、心理的安全性が高い空間でコミュニケーションを交わす居心地の良さや、アイデアが跳ねていく面白さを味わうと、また他の場面でも再現できるようになりたいという気持ちが芽生えてくるものです。

対話を促進するファシリテーション 企画がもっと面白くなるコンセプト

今回の夏期集中講義では、特に「ファシリテーション実践」「コンセプトの役割」「アイデア共創」についての反応が良好でした。

まずファシリテーションについてですが、参加してくださった学生の大多数は、これまでファシリテーションを実践したことが無いか、したことはあるけれどうまくいかなかった経験をお持ちのようでした。そこで今回の講義では、ファシリテーターの役割と基本動作をお伝えし、各自12分程度のファシリテーションを行なっていただきました。

対話のお題には、意見対立が生まれやすい曲者たちを用意。どうやったら合意できるか不透明な難題に対して、まずは意見を十分に拡散し、共通の意見は何かを探っていただきます。それを足がかかりに、みんなが納得できる合意形成を目指し、対話を楽しんでいただきました。

これまでにファシリテーション経験が無かったということだけあって、スポンジに水が染み込むかのよう。急速進化していく学生の皆さん、さすがでした! 

ファシリテーションって、1にも2にも「やってみる」に限ります。畳水練ではダメで、実際に現場で四苦八苦してみないと、場をつかむセンスが養われません。今後は臆することなく、ぜひたくさん実践してみていただきたいです。

コンセプトの役割については、アイデアドリブンで進めてしまった過去の失敗事例からお話しさせていただきました。企画やプロジェクトをチームで進行する際は、コンセプトが重要な役割を果たします。

コンセプト不在の企画では、全体の枠組みが明確になりません。伴って、意思決定の基準が不明瞭になります。その結果、企画の純度が薄まるのです。

とても嬉しかったのは「筋の良いコンセプトが見つかると、アイデアは勝手に湧いてくる!」という効能を、学生の皆さんが実践を通じて発見してくださったことでした。

これを体験できると、コンセプトについての解像度が一気に高まります。 そして、もう二度と、コンセプトが存在しない状態で企画を作ろうなどとは思えなくなるものです。コンセプトから考えたほうが、圧倒的に面白くなるから!

ユニークな新案が数多く生まれたアイデア共創

講義終盤のアイデア共創では、「自転車利用者のヘルメット装着率を高めるアイデア」というお題で、妄想アイデアトレーニング「モウトレ」に取り組んでいただきました。

今回は始めに、自転車のヘルメット装着に関する情報収集をお願いしました。何%くらいの方がヘルメットを使用しているのか、使っていない方はなぜ避けているのか、どのような価格帯で、どんな機能を有したヘルメットが販売されているのかなどをリサーチしていただきました。

こうした基礎情報は、企画を考える際にとても大切な役割を果たします。なぜなら、情報が増えれば増えるほど、現状への洞察が深まるからです。これによって、芯を食った企画や、これまでにはなかったユニークなアイデアが生まれやすくなります。

また、実際の課題が分かれば、その課題をひっくり返す案を考えることで、アイデアを量産することができます。この発想だけに終始してしまうと幅が狭くなってしまうため、少し注意は必要ですが、全方位に向けてアイデアを考え尽くすためには、とても有効な視点です。

「汗臭いヘルメット…、友達の部屋に持って上がれないよな…」

「ヘルメットつけるのはいいけど、どうやって持ち運ぶの?」

「安全なだけじゃなくて、装着するメリットが欲しいよね」

講義初日は「アイデアを出すのは苦手」「グループワークは苦手」と言っていた皆さんでしたが、4日目ともなると鮮やかなもので、見事に対話が進みます

最終的には、このようなアイデアが100案ほど誕生し、教室は大いに盛り上がりました!

  • キャッシュレス決済機能つきヘルメット(もらえるポイントがアップしてお得♩)
  • デジタルサイネージつきヘルメット(広告が流れ、走行距離に応じてバイト代をゲットできる!)
  • 自転車を漕ぐと冷暖房機能が作動するヘルメット(夏冬でも快適!)
  • 好きな子の声で励ましてくれるヘルメット(装着したくなる動機を喚起)
  • サブスクで定期的に新しいヘルメットが届く(デザインへの飽きを解消)
  • 自転車にくっつくヘルメット(自転車、ヘルメット双方の盗難を防ぐ)
  • 虫カゴになるヘルメット(男児が好きそう!!)

アイデアの評価を可視化し判断基準を明確に

ここから、効果分析表を用いて、アイデアの優劣を可視化していただきました。円滑な合意形成には、企画を評価する観点を明確にし、お互いの感覚を擦り合わせる作業が欠かせません。その手助けをしてくれるツールが効果分析表です。この手法は、意思決定が必要となる様々なシーンで重宝します。

まず始めに、評価したいアイデアを選択します。それから、案の良し悪しを判断するための要素を複数用意します。今回のお題で言えば、「革新性」「実現可能性」「収益性」などの項目です。

次に、これらを◎〜×で評価していきます。◎は3点、◯は2点、△は1点、×は0点などと点数を設定しておいて、数字で見比べられるようにするとなお良いでしょう。

この時、「革新性」と「新規性」など、似通った項目を並べてしまうと、点数が二重に加減されてしまいます。意味が被らず、多角的な判断ができる基準を揃えることがポイントです。

こうして下準備をしてから、総合得点が高い案を採用するか、企画の成功に欠かせない要素の得点に優れた案を選ぶかを議論をしていくと、極めて建設的な話し合いを実践しやすくなります。

この議論を空中戦で行なってしまうから、話がややこしくなるのです。誰が何を大切にしているのかが不明瞭なまま、いつまでも話が噛み合いません。

こうした場では、意思決定のプロセスが曖昧になり、声の大きい人や、年長者・役職者の勘が優先されてしまいがちです。その結果、企画の取捨選択に対して感情のしこりが残り、チームの士気も低下します。

余談ですが、効果分析表の利点は、合意形成だけに留まりません。こうしたフレームを脳内で展開することができると、個人の意思決定の質も高まります

効果分析表を作るプロセスでは、まず企画の判断軸を洗い出します(水平思考) 

そのうえで、優先すべき要素は何なのかを探ります(垂直思考)

この思考グセが身につくと、ぼやっとした意思決定はぐんと減り、自分なりの根拠を持った選択が増加するようになるのです。ぜひ使い倒していただきたい手法の一つです。

心に残る学びを意図して

全講義を通してとても印象に残ったのは、学生の方々の成長スピードでした。初日は控えめに振る舞っている方も多かったのですが、日を重ねるごとにオープンな議論が増え、最終日は「ファシリテーター役を決めない?」なんて声をかけあいながら、とてもスムーズなグループワークが展開されていました。こうした変容に間近で立ち会うことができ、とても甲斐を感じられた4日間になりました。

私自身が大学生だった頃は、ラボ・パーティーでの課外活動に夢中で、学内での学びは二の次にしてしまっていました。卒業もギリギリで、4年後期でようやく必要単位を取得しきれたという有様です(未だに留年してしまう夢をよく見ます。よほど心に刻まれているのでしょう…)

ラボ・パーティーでの経験は、リクルート、東日本大震災復興支援財団、ワークショップデザイナーとして独立、という現在のキャリアに直結しているため、全く後悔はありません。ずっと大切にしたい思い出も山ほどあり、間違いなく私の財産です。

ただ、大学時代を振り返ると、もっと勉強しておけば良かったなあと、今でも灰色な気持ちに包まれます。もしもあの時、1冊でも2冊でも、より多くの本を読んでおけば…。人生を通じて探究したいテーマを見つけられていれば…。面白くて夢中になってしまう講義と出会えていれば…。

今回久しぶりに宮城大学の図書館を歩き、素敵な蔵書の数々に触れ、こうした思いは、ますます強くなりました。

そんな私なので、講義をデザインする際や、学生の方々と接する際は、「どうしたら長く心に残る学びをご提供できるだろう?」「どうしたら学生の皆さんの探究心が芽生えるだろう?」と、自分に問いかけることがクセになっています。もちろん、今回の講義もそうです。

どこまでお役に立てたか分かりませんが、もしこの4日間が、受講してくださった皆さんの人生を彩る1ピースとなれば、至上の喜びです。

ご依頼をいただきありがとうございました。

対話をもっとおもしろく。

相内 洋輔

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