WORKSHOP LANDの相内洋輔(あいない ようすけ)です。私は2024年現在、年間で60~70回のワークショップをご提供しています。積極的に参加してくださる方々のおかげで、とても楽しい触発の時間を過ごさせてもらっています。
ただごく稀に、参加したくないオーラが全開となっている回に遭遇します。特に「コンディションが悪くて…」とご依頼をいただく組織開発の案件ほど、こうした傾向が顕著です。
ある程度のアウェイムードは覚悟していても、冒頭から刺すような目線を向けられたり、まるで興味がないと言わんばかりに携帯をいじられたりすると、ふう…、とため息をつきたくなってしまうものです。そんなに参加したくないなら帰っていいよ、とも思います。ワークショップデザイナーだって、人間だもの。
私もコンディションが芳しくない組織にいた経験があるので、こうした方々のお気持ちは察するところがあります。上司が勝手に外部講師を連れてくるなんて、火に油を注ぐような行為です。従うものか、と反抗心が燃え盛っても仕方ありません。また、余計な波乱を避けるために、積極的に無気力を装うことも自然です。
どれだけ参加者の前進を願って作ったワークショップでも、残念ですが、こうした場では機能しません。
ただ、だからと言って、ワークショップデザイナーがワークショップを諦めてしまっては大問題です。参加者の時間をいただいているということは、大げさに言えば、参加者の命をいただいていることと同義です。命をドブに捨てるような使い方をさせてしまってはダメだと、私はいつも思うんですよね。
また、参加者のほぼ大半がネガティブなコンディションだったとしても、その中の何人かは、ひたむきな参加態度を示してくださるものです。せめてその方々にだけでも、「今日のワークショップに参加してよかった」と感じてもらいたい。
今日はアウェー極まりないワークショップでの振る舞いについて書いてみます。
参加意欲が低い場に起きがちな「3薄」
まず始めに、参加意欲が著しく低い方々が集うワークショップでは、どのようなことが起こるかをご紹介します。こうした場では、「粘り強さ」「相手への興味関心」「成果へのコミット」がとても薄くなりがち。3密ならぬ、3薄です。
非主体的な参加者の大きな特徴として、(これはムズカシイ)と感じた途端、何にも考えなくなってしまう傾向がよく見られます。能力的には十分にできることでも、もう少し先まで考え続けてみる、答えが出なくても問い続けてみる、という粘りを放棄してしまうのですよね。相撲で言えば、徳俵に足がかかった瞬間、自ら土俵を降りてしまうようなものです。
また、アイデア発散のワークも控えめです。「思いつく限りたくさんアイデアを作りましょう」とお願いしても、数個だけぱっと考え、時間を持て余す。あるいは、最初の1つ目すら出てこないこともざらです。ワークショップではアイデア発散と収束が対になることが多いですが、発散が弱いと、収束のしようがありません。つまり、アイデア発散以降の全プロセスが、機能しなくなってしまうのです。
また、同じグループの参加者について、極端に関心が薄い態度をとりがちです。ワークショップは互恵的な営みと言われます。なぜなら「意欲的な他者」の存在が、自分との差異や、思考の空白地帯、本当の想いなどを発見する、良質な触媒となってくれるからです。それぞれが感じていることを共有しあうことで、お互いの人生が前進するきっかけが生まれることに、醍醐味があります。(私はこれが大好きで、ワークショップをご提供しています)
互恵的な作用の分かりやすい例としては、同じグループの参加者から質問してもらうことが挙げられます。ところが、参加意欲の低い方は、質問をしないのですよね。ぷいっとそっぽを向いてしまう感じで、まるで相手への興味関心を示しません。また、対話中の帰属シグナルもなければ、ポジティブなフィードバックも無い。これでは、本来はチーム戦であるべきワークショップが、たちまち個人戦になってしまいます。
上記のような状態ですから、もちろん成果に対しての責任感も湧いてきません。それどころか、成果が出ないことを積極的に望まれるケースさえあります。
ワークショップ後に「だからこんなの意味ないって言ったじゃない?」と、鼻で笑いたい! そんなお気持ちがギラついて見える参加者も、少なくないのです。こうした方々は、ワークショップがうまく進んだり、予想外に面白かったりしては困るのですよね。だからつまらなくしようと必死で頑張る。
お気持ちはわかるのですが、頑張る方向を間違えちゃっていますよね…。
(昔の私も上記のようなコンディションだった時がありましたので、心中の葛藤はお察しするものの)
守備重視で失点を防ぐワークショップ運び
こうした「事前の予想を遥かに超えてコンディションが悪い組織」に遭遇した際、ワークショップデザイナーはどうしたら良いのでしょう。コンディションが良くなってから実施しましょう! とお家に帰れたら楽ちんなのですが、当然そういうわけにはいきません。
現時点での暫定解になりますが、私はこうした場では、とにかく守備重視のワークショップ運びを徹底しています。まずは会場に不満エネルギーが蔓延しないよう、細心の注意を払う。そして、カウンターのワンチャンスに勝機(成果の深まり)を託すのです。
そのうえで、まず私は、事前に設定したワークショップのゴールを手放すことを決めています。参加者が想定していた以上に後ろ向きだった場合、当初の目的地まで辿り着くのは至難です。無理やり達成へ向かおうとすると、必ずファシリテーター側に力みが生じます。これが参加者に余計なストレスをかけてしまうのです。そうなると、どこかに穴が開いて、不満が一気に漏れ広がるのですよね。蔓延した不安は、途端に悪さを始めます。百害あって一利なしです。
このため、もう少し手前にゴールを引き直すことで、場の崩壊を未然に防ぎます。状況によっては、用意してきたプロセスさえ手放し、参加者にフィットする内容を即興で再構成します。(ただし独断で変更すると依頼主や協働者が驚いてしまうので、休憩時間やメッセンジャーなどを使って所感を伝え、どんな内容に変える必要があるかを共有しておきましょう)
ファシリテーターとしてのテンションは、参加者より1トーンだけ高くなるよう出力を調整します。こうした場で普段通りに振る舞うと、トーンが高すぎて浮いてしまう恐れがあります。かと言って、お通夜みたいなファシリテーションになってしまってもダメです。
そこでちょうどいい塩梅になりやすいのが、参加者の1トーン上を意識することなのです。寄り添いの姿勢と、この場を一緒に楽しもうという心構えが、参加者にほどよく伝わるよう、調子を合わせます。
余談ですが、この1トーン上という意識は、どんな場でも同じだと捉えておくのが良いと思います。うまく参加者に馴染みつつ、明るいムードを作りやすくなります。
「最も参加意欲が高い方」に集中して意識を向ける
もうお気づきの方も多いかもしれませんが、参加意欲が低い場は、とにかく我慢、我慢、我慢です。まずは場が崩壊しないよう、不満や不快感を場に蔓延させないこと。欲をかいて高望みすると、ろくな結果になりません。
とはいえ、守備だけの戦いでは、ファシリテーターを務めるのがしんどい。ワークショップは、ポジティブなエネルギー交換の場ですから、ダークサイドへのケアばかりでは、面白くないですね。
そこで私は、参加者の中で意欲が高い方、成長を意図している方、変化を作ろうとしている方を探すようにしています。いくら全体の参加意欲が低くても、集団の中には、必ず前を向いている方がいるものです。そうした方達は、まるで断崖に咲く一輪の花のよう。コンディションが悪い組織においても、しっかりと芯を持ち、自分を律している方ほど、強く気高いオーラが溢れているのです。その方々の前進に、全力コミット!!
参加意欲が高く、自組織の現状を受け止めている方は、目の前の機会から得られるかもしれない成果に一生懸命です。周囲のコンディションにも左右されません。私はこうした方々のお役に立ちたい。
例えば私は、ワークショップが順調に進んできたら、参加意欲が高い方の様子に合わせて、各ワークの時間配分や、声がけを調整しています。持ち帰っていただける物がほんの少しでも増えるように意図して関わると、自分自身の集中力も途切れないのです。
ワークショップはそもそも、「主体的な参加者」を対象にデザインします。参加意欲が低い人が得られる成果は限定的。そのため、この層に力を注ぐのは、穴の空いたバケツで水を汲み続けるようなものです。徒労感。
だから、意識のカーソルは、常に参加意欲が高い方に合わせる。これが場への貢献でもあり、自衛の最善手でもあるんですよね。
ワークショップは「主体的な」参加者のためにある
ということで、この記事では参加意欲が低い方が中心となっている場を、どうホールドするか、ということについて書いてきました。
こういう場を経験してしまうと、「怖い」という気持ちが先立って、もうワークショップのリードなんてできない…、と思ってしまう方もいるかもしれません。
でも、参加意欲が著しく低い場で、ワークショップが機能しないのは、ワークショップデザイナーのせいでは絶対にないです!
参加意欲が高い方々へ提供したワークショップが盛り上がらなかった、という結果とは、質が違いすぎます。ですから、あまり気に病まないでいただきたいものです。もちろん、真剣に反省する姿勢は大切ですが、自分の心を守ることは、それ以上に大切だと思うから。
私の場合は、主体的な参加者が集まってくださるワークショップで、しっかりエネルギーをチャージしています。新しい発見の喜びが、会場をじんわりと包んでいく時、私はワークショップデザイナーで良かった、と思うのです。
今日はここまで。
対話をもっとおもしろく。
相内 洋輔
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