WORKSHOP LANDの相内洋輔(あいない ようすけ)です。私は東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科でワークショップデザインやファシリテーションについて教えています。いまはちょうど課題提出の時期で、学生からのレポートが毎日届いています。
私は芸工大の学生に、ワークショップでは「正解よりも納得解を大事にしよう」とお伝えしてきました。これを覚えてくれていた何名かの学生が、講義の中で印象に残ったこととして挙げてくれました。
そうなんです。私は、ワークショップでは正解探しより、納得解づくりに焦点を合わせていただきたい、といつも思っています。ですからこの点に言及いただいたことを、とても嬉しく感じました。
せっかくなので、今日はなぜ 正解 < 納得解 と私が思っているのか書いてみたいと思います。
「正解探しという病」が連れてくるBadプロセス
ワークショップでは様々な対話が行われます。組織の戦略を練る、コミュニティの未来を考える、自分の人生の指針を探すなどなど、実に多様です。『ワークショップ・デザイン 知をつむぐ対話の場づくり』ではこうしたワークショップの分野を、人間系(教育学習型)、社会系(合意形成型)、組織系(問題解決型)と3つに分類し、これらの3つの要素を併せ持った分野を複合系(変革型)と分類されています。
私はこれらの全ての分野でワークショップを実施してきているのですが、毎回必ず、対話が正解探しになってしまわないように意識しています。シンプルに、あまり良いアウトプット・人間関係が生まれないからです。
どうしてかと言うと、正解探しの呪縛に支配されてしまった場では、多少の順序の差はあれど、概ね下記のようなプロセスを踏み、メンバーの意欲が失われていくからです。
- 視野が狭くなりがち
- 排他的な議論モードに突入
- 迷子になりやすい
- 合意形成しづらい
- 行動意欲が生まれない
見るからに嫌な雰囲気だと思いませんか?
視野が狭まり、排他的な対話になる
正解探しに囚われてしまったグループには、まず始めに、意見を「収束」させようという波が押し寄せてきます。正解探しは、自由な発想で考えを広げる「発散」と相性が良くありません。そのため、発散より収束を優先させる挙動が生じがちなのです。
その結果、突拍子もないアイデアや、本題と関係性が薄いアイデアの共有は制限され、正しいっぽい小粒なアイデアだけが許されるムードが蔓延し始めます。
面白いことに、どんどん正解探しにのめり込むチームには、なぜか責任感の強い(融通の効かない)、仕切りたがりなリーダーが現れがちです。こうしたリーダーは自分の意見を強く主張して、他者の意見を否定しがちな傾向を兼ね備えています。時には、代案が出せないなら私に従え、と強硬手段に打って出ることまでも…。
ここまで来ると、対話の場にはだいぶ暗雲が立ち込めています。苛立ちを覚えるメンバーも出始めます。それでも、なかなか意見の収束には至りません。というのは、正解を決めるには確固たる評価基準が必要となるからです。
例えば組織の戦略を考える時間だとしたら、売上げ、効率性、メンバーへの負荷、コスト、将来性、成長、話題性、新規性etc.. といった感じで、アイデアの良し悪しを決める評価基準は無数に存在しています。当然、どの基準を優先するかで、どのアイデアを選ぶかが変わるはずです。
ギスギスして、アクションの意欲が減退
にも関わらず、正解探しムードの対話では、どの基準を優先すべきかは決めずに、とにかく早くアイデアを選ぶ・絞ることだけにフォーカスしたい視野狭窄な思考に支配されてしまいがちです。「基準を設けよう!」という客観的な提案はなかなか生まれません。個々人のなんとなくの感覚に沿った意見表明が繰り返され、対話の観点が曖昧なまま、選びたいのに決めきれない状況が長く続きます。
その結果、合意形成が非常に困難になります。場には ①リーダーのゴリ押し案を選ぶか ②それを蹴るか 意外の選択肢が見えなくなり、メンバーには慎重な判断が求められます。というのは、リーダーの機嫌を損ねないようなコミュニケーションが求めらるからです。多くの場合、仕切りたがりなリーダーの案は、メンバーの共感を得ません。
リーダーは自分の意見を通したい。メンバーはやんわりと違う案に着地したい。
そうして駆け引きをしている間に時間切れになって、仕方なく何かのアイデアを選ぶことになります。ここで選ばれる案は、考えを発散させていないから新規性に乏しく、皆で一緒に作り上げた深みもないので、全く手応えがありません。
つまり選んだアイデアに愛着も湧かなければ、それを実践する意欲も湧かないのです。加えて、リーダーとメンバーの間には、深い溝が生まれます。正解探しの暴走は、百害あって一利なしです。
ワークショップでは皆の納得解を作ろう
Badサイクルの中で起こりがちなことを大まかに書いてきましたが、このように正解探しムードにやられてしまうと、対話の価値は極端に失われます。
こうした悲しいエンディングを迎えないためには、正解を探したい気持ちをほどよく手放していただき、集まった皆が「これだったら共感できる!」と納得できるアイデアを見つけられる雰囲気作りを徹底することが大切です。
ワークショップで対話したことは、その場だけで終わりにせず、実際の日常の中で新しいアクションにつなげていくことが重要だと私は思っています。人は頭ではなく心で動くというようなことがよく言われますが、何か新しいアイデアを実行してみるためには、論理的な正しさだけでは不十分で、情緒的な共感、興奮、感動などが伴うアイデアでないと、なかなか重い腰は上がらないものです。
もちろん、正解作りも重要です。ですが、ワークショップという限られた時間では、根拠となるリサーチや仮説検証を行うには不十分過ぎると思うのです。ここに没頭して、精度の低いアウトプットを出し、人間関係を棄損するのはもったいないですよね。
だからワークショップの場では目的を棲み分けて、納得解づくりに全力を注ぐことが成果につながると、私は声を大にしてお伝えしているわけです。
余談ですが、私自身は正解を探して仕切ってしまうタイプを長くやってきました……(苦笑)
だから正解を探したくなっちゃう人の気持ちとか、一連のプロセスから生まれる恍惚感とかは、よく分かるんですよねぇ。
昔の自分が、反面教師です。
長くなったので、今日はここまで。
対話をもっとおもしろく。
相内 洋輔
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