WORKSHOP LANDの相内洋輔(あいない ようすけ)です。私は20年前からワークショップの企画運営を本格的に始めて、かれこれ500回近くの場づくりを行ってきました。
私のワークショップは構成型であることがほとんどなので、事前にワークの予定が決まっており、どの回でも必ずタイムキープが必要になります。
高校生〜大学生の頃は腕時計を目視しながらアバウトに時間を測っていましたが、iPhoneが登場して以来、タイマーのアプリに頼るのが日常になりました。秒単位まで正確に時間を示してくれて、運営の強い味方です。
均等な発言時間を目指したタイムキープと諸調整
なかでも特に気を使っているのが、参加者それぞれのシェアの時間です。私が場作りの際に大切にしている心理的安全性を高めるためには、「均等な発言機会の創出」が重要な要素のひとつになります。そのため私は、各人の持ち時間に大きなバラツキが生じないよう、きっちりとシェアの時間を測っています。
ただし、持ち時間の中でどうしてもシェアが終わらない方がいて、その方がお話ししていることがとても意義深い場合や、ここで切ってしまったらお話し途中の方が不完全燃焼な気持ちになってしまいそうだと感じた時は、少しだけアディショナルタイムを差し上げています。
これはコッソリと秘密裏に進行する場合もあれば、オープンに延長を伝える時もあります。
コッソリ進める時は、「残り時間1分です!」といったアナウンスのタイミングをずらします。本当は開始から4分で告げなければならないところを、開始5分(本当だったら次の人に移行する時間)に告げる、といった感じです。
オープンに延長する時は、まだお話しきれていない方がいるので〜とか、かなり白熱しているチームがあるので〜とか、理由と延長する時間をセットでお伝えしています。こうすると角が立ちにくくなりますし、なんか長くない? いつ終わるの? といった参加者のザワザワも防ぐことができます。
私がどちらを選ぶかは、会場の雰囲気次第です。場が和気藹々としていて、後ろの時間にも余裕があればコッソリ延長を。もうすでにシェアが終わっているグループがあるなど、進行にバラツキがあるケースや、残り時間に限りがある時はオープンに告知することが多いかな。
タイマーがなくても何分経過したかがおおよそ分かる感覚
こうした時間計測を毎週何回も行ってきたことで、体が時間を覚えたんでしょうね。今では「5分経ったらアナウンスしますねー」と告げて、タイマーを見てみたら4分58秒だったという感じで、告げた時間と経過した時間がピタリと一致することが普通になりました。
実はこの時間経過に対する感覚は、けっこうワークショップの進行に役立っています。
まず一つは、場の観察に集中できるという点です。各テーブル毎にどんな話が行われているのか、誰がどのような状況にあるのかを見極めるためには、時計に気を取られず、場に意識を集中することが必要です。時間感覚が正確だと、必然的に時計を見なければならない回数が減るので、その分だけ参加者の様子を見守る時間に充てることができます。
もう一つは、スピーチの時間を容易に調整できるという点です。ワークショップデザイナーには、参加者に皆さんに向けて何かを語るシーンが日常的にあります。たとえば、会のまとめなどはその最たるものです。まとめのパートは、予定の時間通りに、内容を適切に反映しながら、どれだけ本質的なメッセージをお伝えできるかが勝負です。
私は各回、どれくらいの時間が余っているかによって話す分数を即興でデザインしているのですが、ここで決めた時間を大きく超える/大きく下回るというズレはほとんど生まれません。予定終了時刻にピタリと完了するワークショップは、場にとても清々しい気持ちを生み出してくれるものです。
正確な時間感覚は場づくりを底支えしてくれるインナーマッスル
余談ですが『1秒で答えをつくる力 お笑い芸人が学ぶ「切り返し」のプロになる48の技術』では、オール阪神・巨人さんの時間感覚に関するエピソードが紹介されていました。
お二人が生放送で10分の漫才を披露する日、ネタ合わせをストップウォッチで計ってみたらピタリ9分59秒だった、というところから話は始まります。これだけでもすごいのですが、圧巻なのはここから。
本番15分前になって出番を待っていたら、「時間が押しているので持ち時間8分でお願いします」と急に告げられ、交渉の余地も、ネタを直す時間もないという緊急事態が発生したんですって。
それでバタバタと最低限の段取りだけつけて、漫才を始めたところ、なんと7分59秒でキッチリと仕上げられたそうなんですね。プロフェッショナル過ぎて痺れますよね!
著者の本多さんはこのエピソードの結びに、
日頃の稽古の賜物。努力を惜しんではいけません。
と綴られています。
オール阪神・巨人さんは長年の稽古と実践から、正確な時間感覚を身につけられ、持ち時間の中で漫才をいかようにでも構成できるシナリオ作成力を磨かれ、即興的にアレンジし直す編集力まで獲得されたのだろうと推察します。
お二人のプロの技から比べると、時間経過を正しくつかむというだけのことはとてもイージーです。タイマーで時間を計る機会さえ積めば、誰にでも、ある程度の感覚が養われるからです。
ポイントは、意識して取り組むか否かだけだと思います。
毎回意識して時間を計ってみる、自分が1分だと感じたタイミングで時計とのズレを確認してみる、3分だと思った時に本当は何分経っていたかを覚えておく、といったことを積み重ねれば、間違いなく勘が開きます。
たぶんワークショップ駆け出しの方の多くは、こんなことを意識していないと思います。もしご縁があってこちらの記事を読んでくださったあなたもそうだったとしたら、ぜひ、次の場作りでは時間の感覚を磨くことにトライし始めてみてください。
時間感覚の正確さは、見た目に美しい上腕二頭筋のようなものではなく、誰にも見えないインナーマッスルのような、やや地味な能力ですが、それだけに様々なシーンであなたの場作りを長く底支えしてくれるはずです。
また、時間に関しては過去に「時間配分上手」は「ワークショップ上手」という記事も書いています。もしよければこちらもご一読ください。
今日はここまで。
対話をもっとおもしろく。
相内 洋輔
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