苦しいワークショップではキングダムの「介億」が見せた「危機度の平均化」を真似よ!

WORKSHOP LANDの相内洋輔(あいない ようすけ)です。先日、ワークショップへの参加意欲が低すぎる場を崩壊させないポイントという記事を書き、守備的進行をオススメしました。

参加意欲がとても低い方々が集うワークショップでは、各テーブル毎、多彩なネガティブ現象が起こります。まず多いのがマイナス発言の応酬。「やる意味ある?」「難しい」「めんどくさい」などが代表格です。これらは破壊力抜群で、とんでもなく場のムードを下げます。百害あって一利なしです。

ワークの共有をお願いすると、お渡しした時間の1/3程度しか経っていないのに、全員のシェアが終わっていたりします。その後は、無言で下を向く、携帯をいじる、愚痴を言い合う、飲む・打つ・買うの下世話な話に花を咲かせるなど、ダルそうに暇を持て余している様子が伺えます。こうした「セルフ時短」は個人ワークでも同様です。

離席が頻繁に起こるのも特徴です。ワークショップ中に電話が鳴ったりすると、申し訳なさそうな顔を作りつつ、一目散に会場を出て行ってしまうのです…。サボるための免罪符を得たと安堵するのか、次が自分の番だったとしてもお構いなし。背中には「ラッキー」と書いてあるように見えます(すごく悲しい…)

コンディションが悪い組織や参加者へワークショップをご提供すると、上記のような挙動があちこちで生まれ、各テーブルの足並みは、乱れに乱れます

それでもファシリテーターには、場から大切なものがこぼれ落ちないよう、ワークショップの成立をリードする責任があります。簡単に諦めてはいけません。

こうしたせめぎ合いに挑む度、私の頭の中には、毎回ある男の勇姿が浮かんできます。それが漫画『キングダム』に登場する介億という軍師です。史実においてどのような方だったのかまでは存じませんが、漫画内では、蕞という城での守城戦にて大活躍を見せます。

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「危機度の平均化」に奔走した介億

このブログでご紹介したいのは、キングダム32巻 第344話の「出し尽くす」という回で介億が振るった采配についてです。作中では、敵将から簡単に落とせると思われていた蕞が予想外の大善戦を見せているのは、秦王嬴政と、介億の存在が大きかったというナレーションから、守城に奔走する介億にフォーカスが当たります。

この時の蕞は、外周をぐるりと敵に囲まれており、「東西南北いずれかの城壁が制圧され、城門を開かれたら敗北」というシチュエーションです。蕞は首都の喉元に位置しているため、この城を敵に落とされるということは、ほぼ秦国の滅亡を意味しました。

にも関わらず、城内には正規兵がほとんど存在していませんでした。このため、老人や女性などの住民も守城に駆り出され、文字通りの土壇場です。

この時介億は、敵の攻撃がやや薄かった北壁上にて指揮を執っていました。反対側の南壁が敵陣と相対する形になっており、最も敵の部隊から距離が離れていた壁です。このため、南・東西の両壁に比べれば、僅かながら余裕を持って侵攻を防ぐことができました。

とは言っても、ギリギリの持久戦を展開していることには変わりありません。正規兵すら不足している中、戦力はできるだけ温存したいもの。ところが介億は、北壁の余剰戦力を、猛攻にさらされている東西両壁への援軍として用いることを選びます。

なぜならこの戦いは、東西南北、どこか一つが制圧され、均衡が崩れてしまったら即詰みだからです。全ての壁を守り切ることが絶対条件。このため介億は、地続きの東壁・西壁の様子をつぶさに観察し、均衡が崩れそうになった瞬間に援軍を送り続けるのです。

これを作中では「危機度の平均化」と表現し、介億が各戦場のバランスを保つために貢献したことを強調しています。唯一援軍を送ることができなかった南壁では、主人公の信をはじめとする精鋭部隊が、獅子奮迅で敵を薙ぎ倒しました。

こうして長期戦に持ち込めたことが奏功し、同盟軍が駆けつけるための時間を稼げたことによって、秦は滅亡の危機を免れた、というのが事のあらすじです。

「危機度の平均化」はワークショップにも転用できる

なぜこのエピソードを紹介させていただいたかと言うと、「危機度の平均化」という考え方は、ワークショップ運営にもフィットするからです。中でも、蕞の守城戦のような、苦しいワークショップではこの考え方を欠かすことができません。

というのも、冒頭でご紹介させていただいたように、参加意欲が極めて低い方々が集まったワークショップでは、各テーブル毎に様々なネガティブ現象が起こります。一難去ってまた一難。これらを放っておくと、場は簡単に崩壊してしまいます。

しかしながら、私はこれまでの経験から、コンディション不良のワークショップほど、1つのテーブルたりとも破綻させてはならないと思っています。なぜなら、明らかに意欲を失ったグループや、不貞腐れたメンバーの存在は、会場の中で異様に悪目立ちし、全体の士気を著しく下げてしまうからです。

そのためこのような回では、何を置いても場の崩壊を食い止めることが最優先となり、ファシリテーターはほぼ全グループに介入する必要性に駆られます。

ところが、単身でワークショップ運営を行っているケースだと、全てのグループにベタ付きで対応するのは不可能です。体感としては、コンディション不良のテーブルが5つ以上になってくると、ぜんぜん体が足りません。

だから「危機度の平均化」なのです。どこかのテーブルを大きく伸ばそうとするより、薄く浅くでもいいから全体に関わり、各テーブルの崩壊危険度を減らしていきます。

苦境のワークショップでは、どうすれば各テーブルがギリギリ崩壊しないかを念頭に置いて、場をホールドする。そして、最小限の手数で介入し、返す刀で次のテーブルをサポートしていくヒット&アウェイスタイルが求めらるのです。

そうしてなんとか場を保ちながら、どこまで成果を積むことができるか、カウンターの機をじっと伺うのが最善手だと思うのです。

ネガティブな場では事前の設計に固執するほど失点が増える

言うまでもないことですが、ワークショップデザイナーが願うのは、各テーブルで対話が盛り上がり、理想的な気づきや発見を得て、会が完了することです。この目的に向けて、どれだけの準備を重ねていることか…。

でも本当に残念ながら、参加意欲が低い方が多い場合のワークショップでは、どのような仕掛けも機能しません。しかも、当日蓋を開けてみたら、聞いていたよりも圧倒的にコンディションが悪かった、というケースがとても多いのです。(依頼主も言いづらいのだろうと思います)

こうした状況に直面した際、最も悪手は「事前に設計したゴールに固執すること」です。自分が思っていたよりも場の状況が悪いのだとしたら、事前にイメージしてきた参加者像とは異なる方々が集まっているということ。つまりイメージと実態にズレが生じている状態なので、用意してきたワークショッププランがうまくいくはずはありません。

こういう時は、開幕と同時に、準備してきたものの一切を手放す、と腹を括るくらいで調度良いです。そうして、半ば即興で場を紡いでいくのです。ネガティブな場での振る舞いを熟知しているベテランの方ほど、こうした潔さを発揮しやすいなと思います。

一方、理想の状態を実現するためのアプローチしか知らないと、一つひとつのテーブルを最高の状態へとリードしよう、と躍起になりすぎる嫌いがあるように感じます。躍起になるということは、視野が狭まるということ。その裏側で、場からポロポロとこぼれ落ちてしまっているものの存在を察知することができません。そうして、結果的に失点を増やしてしまうのです。

ぜひあなたの引き出しにも「危機度の平均化」を忍ばせておいて欲しい

ということで結論はとてもシンプルですが、ワークショップデザイナーは、ポジティブな場へのアプローチと、ネガティブな場へのアプローチ、どちらも同じくらい引き出しを持っておけると良いですね! 

その一つが、今回ご紹介した「危機度の平均化」です。

ちなみに、年に60~70回ほどワークショップをご提供している私ですら、今日書かせていただいたようなネガティブな会にはなかなか遭遇しません。2年に1回程度です。

だから「危機度の平均化」を発動する頻度はかなり少ないと思うのですが、ぜひあなたの引き出しの片隅に、そっと忍ばせておいていただけると嬉しいです。

できることなら使わないで済むに越したことはないけれど、いつかどこかで、あなた自身の場づくりと、参加者の前進を助けれくれるはずだから。

今日はここまで。

対話をもっとおもしろく。

相内 洋輔

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