ワークショップの参加者と「どういるか」コンテンツと「どう出合っていただくか」

WORKSHOP LANDの相内洋輔(あいない ようすけ)です。先日、全ての原点は「ビーアイ」にあった!? というエッセイ記事で、『子どものためのワークショップ 仙台ビーアイ物語』を読んだ感動を綴らせていただきました。

今日は同書から、ワークショップ運営の超重要ポイントをご紹介します。みなさんのワークショップ運営のヒントとなれば幸いです!

目次

ワークショップ運営における2つの超重要ポイント

『子どものためのワークショップ 仙台ビーアイ物語』は本当に素敵な本で、頭の先から尻尾までご紹介したいと思うのですが、とりわけ下記の一節は、ぜひワークショップに携わる方々にご紹介させていただきたいと感じました。

子どもたちといっしょに「どういるか」子どもたちに何を「どう出合わせるか」を基本に、ビーアイのワークショップのプログラムをつくっています。子どもたちにはさまざまな行動を通して、感じて、考えて、表現して、「自分ってすごいなあ」と実感してほしい。

子どものためのワークショップ 仙台ビーアイ物語

参加者と関わるスタンス」対象との出合い方をどうデザインするか」の2点は、「場づくりの真髄」と言って差し支えないほど、ワークショップの根幹です。およそ全てのワークショップデザイナーが押さえておくべきポイントだと、私は常々思っています。

始めに、子どもたちといっしょに「どういるか」から取り上げます。子どもにワークショップを提供していない方は、「参加者」と読み換えていただければ幸いです。

参加者と関わるスタンスは「ホールド」と「受け取る」

先のブログでご紹介したように、ビーアイはとても自由な空間でした。管理や強制とは無縁で、どの大人もまず私たちの意思を尊重してくれました。その結果、メインテーマと全く関係ないことをして過ごすのもOK。でも野放しにはせず、ちゃんと自分の存在を含んでくれている。そんな安心感とあたたかさがありました。

この基本スタンスを探究するために、触れておきたい本が2冊があります。まずはワークショップの第一人者である中野民夫さんが書かれた『ファシリテーション革命 参加者の場作りの技法』です。この中から有名な一文をご紹介します。

基本的な心構えとしては、ワークショップの場をコントロールするのではなく、その場全体を「ホールドする」(保つ、支える、保持する)という視点ではないだろうか。いつも張りつめているわけではなく、むしろ緩めていることが多いが、「手綱」は決して手放さずにしっかり持っている感覚。

「誰がその場をホールドしているのか(Who holds the space?)がハッキリしていないと、場が落ち着かないし、人々は不安になる。要は、参加する人々が、存分に可能性を発機しあえる「安心」(精神的)で「安全」(物理的)な器づくりを担い、進行促進していく役回りだ。

『ファシリテーション革命 参加型の場作りの技法』

次に、私がコミュニケーションとコーチングを学んだ岸英光先生の著書、『プロコーチのエンパワーメントコミュニケーションの技術』から一文をお借りします。

人は、自分自身のものの考え方や価値観などの枠組みを相手に受け取ってもらい、コミュニケーションの中で客観的にとらえることができると、その枠組みから離れて物事を見直したり、自分のとらえ方の片寄りを見つけ出して別の観点を探したりすることができるようになります。

この時はじめて、さまざまな新しい価値観を受け入れたり、創り出したりできるのです。

そしてこれらが人の成長を促し、幅広い見識を生むのです。

『プロコーチのエンパワーメントコミュニケーションの技術』

なぜ上記を引用したかと言うと、ビーアイの大人が持っていた基本スタンスは、まさにこの2点に尽きると思うのです。場をホールドすること、そして個々人の価値観を受け取ることを通じて、子どもたちの自発的な変容を後押ししてくれていました。

こうしたスタンスが重要になるのは、対子どもに限った話ではありません。相手が大人でも同じです。私は、ワークショップを運営する方には、必須で身につけて欲しい姿勢だと思っています。

「ただいっしょにいる」ことが人を本質的に力づける

この上で、関口先生は「人とただいっしょにいるあり方」について言及されています。

またときには、何か活動をするよりも、ある人とただいっしょにいることがうれしいということがあります。大人にだって、そういう瞬間があります。幼いうちにそういう気分や雰囲気を味わってほしいと思っています。子ども時代にそういう時間をたくさんもっていると、「自分はここにいてもいいんだな」「生きるって楽しいことだな」「人生って味わい深いものだな」と感じるようになるでしょう。大人は、そんな子どもたちの気持ちをくみとって、子どもたちと気持ちを重ねていくようにしたいものです。

子どものためのワークショップ 仙台ビーアイ物語

相手とただいっしょにいることは、相手の存在をまるごと承認するメッセージとして届きます。「いっしょにいるよ」というメッセージを受け取った相手が、自分の形で、今のままのコンディションで存在して良いのだと心から思えたら、その方の世界はたちまち明るくなるでしょう。

また、相手といっしょにいることができると、相手のことがよく聞こえてくるようになります。それらを一つひとつ味わうことで、機能するコミュニケーションが起こり、お互いが重なり合っていきます。その時にこそ、相手がいま何を求めているのか、どうしていきたいと思っているのか、本当に必要なことがつかめるのです。

ワークショップを運営していると、参加者に介入したくなるシーンが無数にあろうかと思います。自分の手腕で相手の葛藤や行き詰まりを取り除くことができたら、それは気持ちが良いですよね。あるいは、何かしないと責務を果たしていないような感覚をお持ちになる方もいらっしゃるでしょう。場を預かる者として、参加者の困り事はほうっておけません。これら両方の点から、私は「ただ相手といっしょにいる」ということをワークショップで実践できている運営者は、そう多くないと感じています。

ただ、積極的な介入がマストとなるシーンもありますが、ファシリテーターがお世話をしすぎると、自分で乗り越えた喜びや発見の感動が薄まり、かえって参加者の前進を阻害してしまうこともあります。

そうした事態を避けるためには、、存在の承認を通じた本質的な力づけを意識し、参加者の自発的な意欲を引き出す関わりが大切です。これまで意識がなかった方は、ぜひ、試してみていただきたいポイントです。

参加者とコンテンツの「出合い」のデザインは会の成否に直結する

次に、子どもたちに何を「どう出合わせるか」というセンテンスについて触れて行きます。こちらでも同様に、子ども=参加者と読み換えていただいて問題ありません。

まず関口先生は、ワークショップの目的について『自分から何かをやってみたくなるような気分になって、何かを行うことで考えたり気づいたりすること』と定義されています。私も100%同感です。

ワークショップの定義は、人によって様々な表現が並びますが、「主体的な参加者が」「協働を通じて」「何かを学ぶ・創る」という要素は共通です。

そして出合いのデザインは、参加者の主体性に直結します。つまり、ワークショップデザインの一丁目一番地なんですよね。言い換えれば、ワークショップのムード作りモード作りです。

ムードとは場の空気感です。「面白そう!」という空気感が場に満ちれば、その空間では自然と触発が連鎖します。

モードとは参加者の取り組み姿勢です。「考え甲斐があるなあ」「遠い世界の話だと思っていたけれど、自分とも関係があることなんだ」と、参加者が今日のテーマを自分ごととして引き当てられれば、ワークショップは半分以上成功したと言っても過言ではありません。

逆に、出合いをしくじってしまったら、躍動感が乏しい場となります。

ほんの一手間で変わる、出合い方の工夫例 

具体的な話もあった方が良いと思ったので、SDGsをテーマにワークショップを展開するとしたら、出合い方にどんな工夫ができそうかを例に取ってみます。

SDGsはイシューが大きすぎるため、自分ごとにするのが難しいのがムズカシイテーマのひとつです。それっぽい意見やアクション案は出てくるのですが、なかなか場が深まらない、ワークショップデザイナー泣かせの一面があります。

このようなテーマに出合っていただく際、ビジュアルの力を頼るのは一つの手です。

例えば最近では気候変動に関するニュースがヘッドラインを賑わせていますよね。何年か前の台風では、新幹線が水没している衝撃的な光景が撮影されました。

https://www.asahi.com/articles/ASMC654G8MC6UTIL034.html

世界各地で毎年のように起こっている山火事。40℃以上の猛暑日が続き、息絶えてしまった動植物。かと思えば、9月の北半球で大雪。

異常気象の状況は、毎日至る所で報じられています。

こうしたシーンを切り取った写真は、参加者の心を動かす大きなパワーを持っています。文字だけのスライドや、口頭での説明に比べ、情報伝達の量が圧倒的なのです。

SDGsの中でも気候変動について扱う会で、子どもが対象なら、氷が溶けて困っていたり、暑すぎて寝そべっているシロクマの写真を配してみる。

年配の方々が対象であれば、もっとダイレクトに、洪水や干ばつの写真を添えてみる。

ほんの少し手を加えて、こんなプロローグをデザインしてみると、参加者の主題への惹きつけられ方が変わってきます。

また、扱うテーマに対して①自分が知っていること ②自分が感じていること ③自分の身の回りで起こっていること を持ち出し合い、参加者とテーマの距離を縮めていくアプローチなども有効です。

こちらについては以前にブログでご紹介させていただきましたので、よろしければご一読ください。

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上記はSDGsに関してのほんの一例ですが、ワークショップ全般においては、他にも様々な出合い方が考えられます。中でも「体験してみる」「触ってみる」「眺めてみる」「味わってみる」などの五感に直結した出合い方は、参加者の興味関心をぐぐっと高めてくれます。

ケースによっては、肝心なことが「伏せられている」ような出合い方も面白いですね。先に進むにつれて、謎の輪郭が明確になっていくようなデザインです。こちらはワークショップ全体の設計が難しいですが、うまくフローをデザインできたら、唯一無二のコンテンツとなり得ます。

まとめ

ということで、今日は『子どものためのワークショップ 仙台ビーアイ物語』からシェアしたい一節を抜き出し、参加者と一緒にどういるかコンテンツと参加者にどう出合っていただくかについて書かせていただきました。

私は東北芸術工科大学でワークショップデザイン演習1という講義を担当させていただいているのですが、もし学生から「ワークショップデザイナーとしての一人前の条件」を尋ねらることがあれば、この2点は間違いなくランクインです。

それくらい重要度が高いポイントなので、ワークショップの腕前を磨いていきたい方は、ぜひご自身の活動に取り入れてみて欲しいと思います!

今日はここまで。

対話をもっとおもしろく。

相内 洋輔

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