ファシリテーションの機転は日々のトレーニングから生まれる
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WORKSHOP LANDの相内洋輔(あいない ようすけ)です。先日ワークショップデザインのセンスは「普通の人」を想像できるかにかかっている! という記事で、ワークショップデザイナー / ファシリテーターは毎日のトレーニングが重要であることを書きました。
今日はこちらに関連して、ファシリテーションの機転を高めるために日常生活の中でできるトレーニングを3つご紹介します。即興力や質問力は、ファシリテーションをしていない時間にも磨くことができます。
参加している会議を経験値に変える
まずはオーソドックスなところから書き始めますが、会議への参加はトレーニングにうってつけです。会議には殆どの場合、会の進行を任されている人物が存在します。その方の一挙手一投足を観察するのです。
そして、ここは素敵だなと感じる点と、イマイチだなぁと感じる点を言語化していきましょう。この言語化がとても大事な作業で、言語化を行うか行わないかによって、得られる経験値に大きな差がつきます。言語化をするからこそ、他者の素敵なあり方やテクニック、気の利いた一言などを自分のファシリテーションに反映することができ、イマイチな対応は自分から排除するよう意識できるようになります。ただ感じたままで終わらせるのはもったいないです。
また、進行者が次に何を言うだろうかと予測をしながら会議に参加してみることも貴重なトレーニングになります。できればこの時に、自分だったら次はこんなことを言うな、あの人に話を振るな、と先々の展開をデザインしてみてください。そうすると進行者が描いたラインと、自分が描いたラインの差分をリアルタイムで味わうことができます。進行者の振る舞いが奏功する時もあれば、自分の進め方のほうが機能したのではないかと気づく時もあるはずで、これはそのまま場作りの経験値になり、即興的な対応力の向上につながります。
もし可能なら、このトレーニングを始める前に、なんでもいいから一冊ファシリテーションに関する本を読んでおきましょう。その本で「大事だ」と語られている観点を覚えておき、会議の中でひとつひとつ検証していけると学びが最大化します。
というのも「視点をもっていないものは見えない」のです。この点については『アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方』という仲山進也さんの本にとてもわかりやすく書かれています。一節をお借りすると
そもそも「視点を持っておらず、問題が見えていない」から、何がわからないかもわからないのです。いくら考えることが大事とはいっても、視点を知らない状態で考えても意味がない。
ということです。チェックポイントをたくさん持てているほど、会議参加の経験が血肉になって行きます。もちろん、ワークショップ参加に於いても同様です。
最初の一冊に何を選んだら良いかわからない方は下記の3冊の中から選んでみると良いと思います。
ニュースや討論番組の進行に自分を登場させる
会議の参加に次いで自分自身のファシリテーション力を磨く機会となるのがニュースや討論番組です。ニュースや討論番組では司会者が会場のコメンテーターに質問を振りながら対話を進行していくケースがよく見られます。この司会者になったつもりで、自分だったらいま誰に、何を振るだろう? ということを想像しながら番組を視聴することがファシリテーション力を高めるトレーニングになります。ちなみに私は、毎日ひるおびの恵俊彰さんに、報道STATIONの大越健介さんになったつもりで、会場の皆さんに質問を投げかけています。
ぜひニュースや討論番組を見ながら、自分だったらいまこの人にこういう問いかけをするなとか、このコメントはもっと掘り下げたいな、なぜなら〜 と、自分視点から番組に参加してみてくだささい。この試行回数が多ければ多いほど、ファシリテーターとしての厚みが増します。筋トレのように、継続して積み重ねることが大事です。
また、番組の司会者はプロ中のプロです。進行に関してはもちろん、経済や国際関係など、特定分野への深い知見をお持ちの方もいれば、エンターテイナーとして場の盛り上げ方を熟知されている方もいて、バラエティー豊かな学びの宝庫です。彼ら彼女らの振る舞いはとても参考になります。
例えば上記でご紹介させていただいた『超ファシリテーション力』の著者である平石さんは、アベプラという番組に登場されるクセの強いコメンテーターをしっかりと尊重しながら適切にディスカッションをリードされており、とても見応えがあります。
ニュースや討論番組が苦手だったら、コテンラジオのような音声コンテンツでも大丈夫です。この番組では圧倒的歴史強者の中に放り込まれた自称歴史弱者の樋口聖典さんがモデレーターをお務めになられているのですが、樋口さんは卓越した知識をお持ちの深井さんをはじめとするスピーカー陣と、歴史に詳しくない視聴者の間に、渡りやすい橋をすっとかけてくれます。
樋口さんのスタンスや質問のタイミング、質問の内容などは、例えば専門家とのパネルディスカッションをモデレートする時など、そのまま他のケースに応用することができます。
ニュースや討論番組に意識して触れることは、自分自身の展開力を高めてくれるだけに留まらず、プロからも学べる一石二鳥なトレーニングなのです。
対立している人どうしの対話を想像する
最後はややトリッキーかもしれませんが、対立している人どうしが対話をするとしたら、という架空の想像をしてみることも、ファシリテーションの良いトレーニングになります。具体的には、どんなプロセスを踏むとお互いの間に健全な対話が生まれるかをイメージします。
元々の主張が対立している人どうしですから、最初のムードは当然険悪でしょう。意見が異なるトピックについて話をしていけば、相手を罵倒したり、水掛け論に終始したりと、散々な展開になっていくはずです。論理の飛躍や詭弁、極端すぎる事例でゴリ押しするなどの、無法な振る舞いも想像の範囲内です。どちらかが掴みかかったり、途中で退席してしまうかもしれません。
こうした犬猿の仲にある人々が集う状況を自分がファシリテートするとしたら、まず何から始めるか、主張の差異をどのように整理するか、どのポイントは共通理解を作れるのか、ということを1つ1つ想像してみるのです。
ここまでの例は大袈裟ですが、ファシリテーションをしていれば、必ずどこかで意見対立に遭遇します。そうしたシーンでも怯むことなく、適切に筋道をつけて、お互いの意見相違の観点を整理し、合意点を探り、お互いの納得感が高い解決策を導く場作りができるようになるためには、ファシリテーション中の学びからだけでは機会不足です。なぜなら自分がファシリテーションをしていて、かつ対立構造が顕在化される機会は、そう毎日お会いできるものではありません。
だから普通の日々の中に、このようなケーススタディを自作し、擬似体験を通じて補完しておくことがとても重要なのです。いざというタイミングで、しっかりと力を発揮するために。
今日はここまで。
対話をもっとおもしろく。
相内 洋輔
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