WORKSHOP LANDの相内洋輔(あいない ようすけ)です。先日、ワークショップへの参加意欲が低すぎる場を崩壊させないポイントという記事を書きました。参加意欲の低さによって、アイデアの数が増えないと(発散)、収束もうまくいかないことについて触れました。
先の記事では書ききれなかったのですが、実はこうした現象って、参加意欲が高い方々が集まった場でもしばしば起こります。意欲の高さが仇になる時があるんです。
今日はこの点について補足したいと思います。具体的には、アイデアを広げるタイミングで、アイデアを深めているチームには要注意です。
みんなが「面白い!」と思ったアイデアは中毒性が高い
ユニークなアイデアを作ろうと思ったら、とにかくアイデアを大量に作ることが鉄則です。そのため私たちワークショップデザイナーは、会場中がアイデアで溢れるよう、たくさんの仕掛けを考えて場に臨んでいます。皆さんの心理的安全性が高まるよう丁寧に語りかけ、どんなにくだらないアイデアでも自由に話せる土壌づくりにも努めています。働きかけが無事に実り、ワークショップの前には想像もできない新案が生まれた時は、心の中で盛大にガッツポーズです!
ただ残念なことに、場のほとんどが参加意欲が低い方々で埋め尽くされている時は、こうした仕掛けや介入が全く機能しなくなってしまうものです。このケースはとにかく我慢。失点をしないよう、守備重視のワークショップ運びとなります。(詳細は前の記事をご覧ください)
今日ご紹介したいのは、意欲が高いのにも関わらず、アイデアの数が絞られてしまうケースです。意欲が高いのに、どうして? とお思いになるかもしれません。理由はシンプルです。面白いアイデアが共有され、夢中で話してしまった、これに尽きます。
特に、チームメンバーの大半が「面白い!」と唸ったアイデアは中毒性が抜群ですね。よほど自制しないと、意識のカーソルを全部持っていかれます。
というのも面白いアイデアって、思わずディティールを考えさせてみたくなったり、派生のアイデアを次々に連想させたくなったりさせる性質があるんですよね。こういうアイデアに出会えた時、場の温度は一気に高まります。そうしてついつい、新たなアイデアを出すことを忘れ、深堀りして考えたくなってしまうのですよね。水平方向の思考から、垂直方向への思考へと、急激にモードを変えさせられてしまうのです。
上記の派生として、場を強制的に「悪ノリ」状態へとシフトさせてしまうアイデアも存在します。少しキツイ言い方をしますが、客観的な立場から冷静に中身を見つめてみると、あんまり面白くないアイデアであることがほとんどです。なぜなら、悪ノリはどこまで行っても悪ノリだからです。
にも関わらず、アイデアをこすりつづけ、沼に沈んでいく方々を何度お見かけしたことか…。
拡散フェーズでの深堀りは要注意!
私はアイデア拡散のフェーズで深堀りにハマっているチームや、悪ノリが蔓延しているチームを見かけたら、相当注意して状況を観察します。他のチームが順調そうだったら、張り付きで見守ることも辞さない勢いです。なぜなら、これらのチームがアイデア出し以降のパートで行き詰まってしまうと、取り返しがつかないからです。
理由は2つです。 1つ目は、なかなか元のアイデアを手放すことができない心理状態になってしまうこと。皆が気に入ったアイデアを廃案とする際には、まるで自分の体をもがれるかのような、大きな苦痛が伴うことがあるのです。このため潔い決断ができず、ずるずると貴重な時間を浪費してしまいます。
もう1つは、アイデア不足。深堀りや悪ノリに夢中になってしまったチームは、出したアイデアの幅がとても狭いため、「AがダメならB」「BもダメならC」と、思考を切り替えていくことが困難になります。
この点、アイデアの幅を広げられていたチームは、軌道修正が容易です。一度ボツにしたアイデアをうまく足場にして、ユニークな発想を展開していくことができます。だからアイデア出しのフェーズでは、何をおいてもとにかく数を出していただくに限るのです。
余談ですが、私がご提供している妄想アイデアトレーニング「モウトレ」では、ひとつのテーマに対して200〜300個のアイデアの種が出されます。このくらいの量が出ると、どのアイデアに可能性があって、どのアイデアにはないかが、よーく見えてきます。アイデアの数を出すと、取捨選択のセンスも自然と備わるのです。
ぱっと思いついた程度のアイデアは磨いても光らない
そして、こちらがさらに重要なのですが、アイデア拡散の初期段階で見つけた面白いアイデアって、最終的にはあまりユニークにならないことが圧倒的に多いです。出会った瞬間は他が霞むくらいキラキラ輝いて見えるのですが、実際に磨いてみると、最初に感じた以上には光りません。私はこれまで、何百チーム、もしかしたら何千チームのアイデアづくりを見てきましたが、この法則を覆したチームは、あまり記憶にないです。
対して、最初はパッとしなくても、磨けば磨くほど素敵になっていくアイデアがあります。最終的な面白さ、アイデアとしての完成度はこちらがダントツです。丁寧に手を加えられていることが、第三者からも明確に分かります。
両者の差を分けるのは、クリエイティブ・カオス(創造的混沌)を味わい尽くしたか否かです。クリエイティブ・カオスについては以前こちらの記事でご紹介しましたが、簡単に言うと、混沌の深さがアイデアのユニークさに比例するのです。
アイデア出しの途中で出会うアイデアは混沌の遥か手前、表面を撫でた程度の場所から生まています。言わば思いつきのレベルから域を出ない、きわめてインスタントなアイデアのです。私は、こうした役に立たないアイデアを出すために、皆さんの時間を無駄にして欲しくないんですよね。
だから拡散のフェーズでは、思いっきりアイデアを散らかす。収束のフェーズにかけては、何かが生まれると信じて、混沌をたっぷり味わう。私はこの原則に則って、ワークショップを企画運営しています。
頭に汗をかき、何が生まれるか分からない不安を超えた先にこそ、まだここにない未来のアイデアが浮かび上がってくるのです。共創の場づくりをする方には、ぜひ知っておいていただきたいポイントでした。
今日はここまで。
対話をもっとおもしろく。
相内 洋輔
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