ワークショップデザイナーが念頭に置いておくべき「いじめ体験の多さ」

WORKSHOP LANDの相内洋輔(あいない ようすけ)です。昨晩は本当に久しぶりの涼しい夜で、気持ちよく眠ることができました。エアコンなしの夜はいいですね。

さて、昨日は「相手が言えること」を超えて自己開示を求めるのはNGという記事を書きました。今日はこちらに関連していじめについて取り上げておきたいと思います。

とても残念なことに今の若者は多くの人が いじめを受けた / いじめをした 経験を持っています。Web上では「いじめ 経験 割合」で検索すると8割、9割といった衝撃の数字が目に飛び込んできますし、いじめ大国という言葉さえ存在しています。

私も何度か直接若者に尋ねてみたことがあるのですが、どんな場でも4~6割の人が過去にいじめを受けたことがあると教えてくれ、その多さに驚かされるばかりです。

正確な割合が何%なのかは分かりませんが、いずれにしても強調しておきたいのは、現代ではかなり多くの人がいじめを経験して育つということです。

目次

過去を扱うワークには配慮が必要

私はこうした背景から「いじめを受けた経験を持っている人は多い」ことを前提にワークショップを企画運営しないと、参加者を傷つけてしまう恐れがあると思っています。

基本的にワークショップの運営者と参加者とはその場限りの付き合いで、事後に継続的なフォローを行うことはほとんどありません。であるならば、ワークショップ当日は、土足で人の心を踏み荒らすようなことはすべきではないというのが私の基本スタンスです。

特に「人生グラフ(モチベーショングラフ)」等の振り返りワークは要注意です。こうした類のワークは過去のトラウマが不意に暴れだす危険があるので、運営者側が細心の注意で進めることが必要だと思っています。ただし実際のところは、とてもカジュアルに扱われていることも多いものです。

勘所の良いファシリテーターは、過去の出来事を扱うワークに入る際、「書けることだけでOK」「嫌な記憶を無理に思い出さなくてOK」などのクッションを用意し、安心な状態をキープできるように進行するものですが、自己開示を強要しがちな方は逆のアプローチを取ります。全部を開示させようと躍起になるのです。

進行役の大人から「嫌な体験もちゃんと書くのが大事だよ」「辛かったこともみんなに話してごらん」などと言われたら、若者は素直に取り組みます。そうして閉じ込めていた負の記憶が開き、心を痛めてしまう人々に、私はたびたび出会ってきました。

強制力の伴う自己開示は、人の心をボロボロにしかねません。「この場だったらここまでは言ってもいいな」と思えることを超えて自己開示を強要してはならないということを、私はワークショップを扱う人の共通認識にしたいといつも思っています。

楽しい仕掛けも逆効果になる可能性を想像しておく

人生グラフのように、過去を扱うワークはトリガーとなりやすいのはもちろん、良かれと思ったちょっとした仕掛けも反作用を起こしてしまう可能性があります。

ぱっと思い浮かぶものが「あだ名」です。たとえば和やかな空気を作りたいという意図で、「今日は小学校時代のあだ名で呼び合いましょう」なんて仕掛けをしてみたらどうでしょう。

あだ名にはその人の肩書きを外して、お互いの関係性をフラットにする力があります。この重要性の平板化はワークショップにおいてとても大切な要素のひとつではありますが、「小学校時代のあだ名」などの縛りがあって自由に選択できない場合、当時のネガティブな記憶を呼び覚ますリスクがあるように思います。

というのも、酷いあだ名をつけるいじめは、古今東西で行われ続けているからです。もし小学校時代にそのようなあだ名をつけられていた方がこの仕掛けの会に参加されたら。どのような気持ちになるかは、想像に難くありません。

また、以前私がLEGO®︎ SERIOUS PLAY®︎をご提供した際のことですが、参加者のお一人から「小学校時代に図工で作った作品をバカにされて以来、何かを作って人に見せるのは本当に辛いと感じています」と教えていただいたことがあります。

絵を描く、歌うなどの芸術性に意識が向いてしまいがちなワークではよく起こる事象なのですが、まさかLEGO®︎にもこうしたお気持ちになる方がいらっしゃるとは想像もしていなかったため、とても驚いたとともに、もっと心理的な抵抗を取り除く声がけができなかったものかと考えさせられました。

優しいワークショップが溢れる社会を作りたい

準備したワークが参加者にどう作用するかは、事前には想像なかなかしきれない部分もあります。実際に、前述のLEGO®︎などはその最たるものでした。

ですが、悪影響を及ぼす可能性が高そうなワークは候補から除外しておくことや、安心安全なファシリテーションもし参加者が心を痛めてしまった時の対処などについては、設計の段階から考えを巡らせておくことが可能です。

シンプルに言えば、嫌な思い出を不意に開かせなということに意識を向けられているか否かで、場作りの質はガラリと変わります。

様々な配慮を巡らしたうえで参加者をお招きするワークショップであれば、そこには優しい空間が広がり、参加者の皆さんのポジティブな前進が生まれやすくなります。逆にこうした部分で手抜きをしたり、人を雑に扱うような企画運営をしてしまっては、良いコミュニケーションは成り立ちません。

私は優しいワークショップがたくさん溢れている社会を作りたいです。そのほうが、きっと良い社会だと思うんですよね。

ですからワークショップデザイナーには、こうした「いじめに関する社会背景」なども念頭に置きながら、ワークの設計やファシリテーションを行うことが求められているのではないかなと、私は思っています。

今日はここまで。

対話をもっとおもしろく。

相内 洋輔

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