WORKSHOP LANDの相内洋輔(あいない ようすけ)です。先日とあるブログランキングのサイトにこのブログを登録しようと思いました。
カテゴリ検索で「ワークショップ」と打ち込んだら、珍しく項目が設けられていて、ちょっと嬉しくなったんですよ!
ところが。
よくよく見てみると 生活 < 工芸・クラフト < ワークショップ という調子で階層が整理されていて、ワークショップは工芸・クラフトの子カテゴリとして配置されていたのです…。
そうじゃない! と声を大にしてツッコミたくなりましたが、日本では何かを作る体験をワークショップと称することがメジャーになってしまっていますよね。ワークショップという言葉の範囲を正しくつかめていない方が多くて、とても残念な気持ちになります。
そこで今日は「ワークショップとは?」について改めて書いてみようと思います。もしワークショップという言葉を曖昧に理解したまま場作りをされている方がいらしたら、ぜひご一読いただきたいです。
ワークショップの要点がしっかり分かれば、場作りの観点がより研ぎ澄まされ、間違いなくクオリティアップにつながります。
主体的な協働体験 創造と学習
この記事ではいくつかワークショップの定義を引用させていただきながら話を進めます。
まず1つ目は『ワークショップデザイン 知をつむぐ対話の場づくり』からの引用です。
ワークショップの原意は「工房」「仕事場」「作業場」です。たくさんの人が工具を手にして、真剣な眼差しでモノづくりに打ち込んでいる場面を思い浮かべてください。ここから、ワークショップとは主体的に参加したメンバーが協働体験を通じて創造と学習を生み出す場を意味するようになりました。
『ワークショップデザイン 知をつむぐ対話の場づくり』
太字箇所の「主体的」「協働体験」「創造」「学習」という言葉は、ワークショップを語るうえで欠かせないキーワードです。
2つ目は『ファシリテーション革命 参加型の場作りの技法』からの引用です。
ワークショップとは、講義など一方的な知識伝達のスタイルではなく、参加者が自ら参加・体験し、グループの相互作用の中で何かを学び合ったり創り出したりする、双方向的な学びと創造のスタイル
『ファシリテーション革命 参加型の場作りの技法』
こちらの定義には「相互作用」「双方向的な」という言葉が用いられ、参加者どうしがお互いに関わりあうことの重要性が明確に伝わってきます。ここから、個人作業はワークショップではないと言えます。
そして上記の引用と同様に、こちらでも「学び」と「創造」という単語が主目的に置かれています。
つまり、「何かを協働で創る体験を通じて、お互いに学びを生み出すこと」がワークショップという言葉のコアイメージです。
創造の対象は様々 学びとの比重はケースバイケース
「創造」という言葉は、やや工芸・クラフト的な情景を強く想起させるので、『ワークショップデザイン論 創ることで学ぶ』から引用させていただき、補足します。
創る対象は、様々なものが考えられる。ものづくりやアート教育であれば作品であり、まちづくりや発想力支援では、アイデアやプランが一般的である。研修や人権教育では、考えたことをプレゼンテーションする場合が多く、環境教育や野外活動では実験や観察をまとめた記録が多い。重要なことは、新しいものを生み出すための試行錯誤によって、深く考える活動を生起させようとしている点である。
『ワークショップデザイン論 創ることで学ぶ』
先に挙げた2つを含めた引用箇所から見て取れるように、ワークショップとは個人が何かを工作し「楽しかったー」と終わるものではありません。
この点についてもう少し踏み込んでおくと、各ワークショップの目的によって、創ることに重きを置くか、学ぶことに重きを置くかの比重は変わります。
そのため、今回自分がデザインするワークショップは創ることと学ぶこと、どちらの優先度が高いか? を自問できるようになると、ワークショップデザインは圧倒的に鋭さを増します。
逆に、ワークショップについての理解が曖昧だとこの選択がぼやけてしまい、ワークショップの内容も何を狙ったのか分からない薄味なものになりがちです。
和食にはカツオや昆布の和ダシが、洋食には牛すねや鶏ガラを煮込んだブイヨンがよくなじむように、創る活動には創るためのワークを、学ぶための活動には学ぶワークを配置して全体の一致感をデザインできると、場の味わいは深みを増します。
他者理解や合意形成のエクササイズ
最後に、青山学院大学 ワークショップデザイナー育成講座にて、狩宿教授から教えていただいた私のお気に入りの定義をご紹介します。
ワークショップの定義
コミュニティ形成(仲間づくり)のための他者理解や合意形成のエクササイズ
『青山学院大学 ワークショップデザイナー育成講座』
こちらは上でご紹介した定義とは少し表現が異なりますが、組織開発の案件などととても相性がよく、ワークショップをご説明する際にたびたび使わせていただいています。
この定義の背景には「人は自分とは違う当たり前を持っている」という大前提があり、ただ自然のままに振る舞っているだけでは、なかなか相互理解に至らないことを明示してくれているように感じます。
機能する協働を生み出すためには、お互いの違いを認識しあい、意見をすり合わせていく姿勢や技術が絶対に必要です。こうしたポイントは座学的に学んでも片手落ちで、実際の心象変化を伴う体験学習が効果的です。
ワークショップの場で起こった衝突や軋轢、相互不理解の体験、あるいはスムーズに合意形成ができた体験からは必ず何かしらの教訓が生まれ、それらは日常に活かされます。つまりワークショップの成果として「転移」がもたらされるのです。
このため、ワークショップ内で小じる大小の対立を起点に、お互いの主張を並べて丁寧に見比べ、何らかの合意形成を導こうと手を尽くすプロセスは、学びの示唆に富んでいることがお分かりいただけるのではないでしょうか。
コルブの経験学習サイクルとワークショップ
冒頭にも書きましたが、場作りの担い手として、こうした点に理解があるかどうかは、ワークショップ全体のクオリティに直結します。
簡単に合意できるテーマであればエクササイズとしての価値がありませんし、ワークショップ中に生まれた対立を反射的に取り除くファシリテーションをしてしまっていたら、参加者の皆さんが自分たちの力で折り合いをつけるための芽を積んでしまいかねません。
私はワークショップをデザインする際は、必ず「創造」と「学び」について一度掘り下げています。具体的には何を創造していただくか、何を学びとして持ち帰っていただきたいかを明確に言語化し、創造と学びの比重を数値化します。(創造:学び=7:3 4:6といったイメージ )
それから具体的なコンテンツ案を考え、タイムラインに落とし込んでいきます。多くのケースでは、コルブの経験学習サイクルに則った流れ作りを意識しています。
ワークショップデザインの基本型
こちらも『ワークショップデザイン論 創ることで学ぶ』に詳しい記載がありますので、引用します。
6 ワークショップの基本構造
ブルックスハリスとストックワード(1999)は、コルブの経験学習サイクルをもとに、ワークショップの基本構造を以下の6点にまとめている。
(1)導入と解説
ワークショップの概要について説明し、参加者の自己紹介とともに、参加者がなじむための活動を行う。
(2)経験の内省
ワークショップのテーマに基づき、日常生活の中で経験したことを参加者間で話し合い、多様な事例を共有する。
(3)同化と概念化
経験を相対化するための新しい情報を提示し、話し合うことによって知識化するとともに、その知識を使って過去の経験を概念化する
(4)実験と実践
実験的な状況を設定し、問題解決的な実践を行う。グループで協力しながら解を形にする制作活動になる。
(5)応用の計画
ワークショップの実践について振り返り、話し合いの中で気がついたことを可視化して反芻する。また、今後学んだことを応用できる状況はないかを考え共有する。
(6)まとめ
ワークショップ全体について振り返り、ワークショップに関する評価を行う。
ワークショップをデザインする際は、ぜひ参考にしてみていただきたい流れです。
特に(5)応用の計画と(6)まとめは、時間の都合でカットしてしまうケースが散見されますが、ここをしっかりやりきらないとワークショップで得た教訓を、違うシーンで「転移」できません。ぜひじっくりと扱っていただきたい項目です。
私も過去にワークショップの設計手順について、こちらとは違った切り口で記事を書いています。
・ワークショップの予定表は「料理のレシピ」 のような分かりやすさを目指そう
よろしければ合わせてご参照ください。
ここまで、ワークショップとは何か? について書かせていただきました。あなたのワークショップデザインの参考になれば幸いです。今日はここまで。
対話をもっとおもしろく。
相内 洋輔
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